当社グループは「中期経営計画(2021~2023年度)」および「ESG取組方針」において、気候変動を含む環境問題の解決に向けた取組みが経営上の重要な課題であると位置づけています。
当社は事業活動を通じて気候変動対策を講じ、「脱炭素社会」への移行を推進することを「エコ・ファーストの約束」として公表し、2050年のカーボンニュートラル達成に向け様々な取組を進めています。
先般「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」提言への賛同を表明しました。
気候関連のリスクおよび機会を特定・評価し、事業活動に与える中長期的なインパクトを把握するためシナリオ分析を実施しましたので、この結果を踏まえた情報を開示します。
【ガバナンス】
当社は、気候関連課題を含む経営上の重要事項を経営会議(議長:社長)にて審議しています。また、経営会議を補佐する機関として「サステナビリティ推進委員会」(委員長:経営戦略本部長)を設置しています。
「サステナビリティ推進委員会」は、経営戦略本部長を委員長として各事業本部長等により構成されており、ESG/SDGsの視点から、企業の長期的な成長・持続可能な社会形成に資する施策全般を検討する組織となっています。
他の経営会議体等と連携し、気候関連課題を含む環境課題への具体的な取組、CO2排出削減を含む環境目標に関する進捗状況を踏まえた対応策の検討等を行っています。
取締役会では、上記プロセスを経た気候変動関連事項について適宜報告を受け、取組状況の監督を行っています。
【戦略】
気候変動に伴う「リスク」には、GHG排出に関する規制の強化等の「移行」に起因するものと、自然災害の頻発・激甚化等の「物理的」な変化に起因するものが考えられます。一方で気候変動に伴う「機会」として、新たな市場における需要の増加等が考えられます。また気候変動の影響は、短期的のみならず中長期的なスパンで顕在化する可能性があります。そこで当社では短期(概ね3年以内)・中期(概ね3年超~10年以内)・長期(概ね10年超)の3つの時間軸から気候変動関連の「リスク」(「移行」と「物理的」に分類)と「機会」を特定しました。
特定した主なリスクはGHG排出に関する規制の強化による建設事業コストの増加等、機会は再生可能エネルギー関連事業の需要の増加、国土強靱化市場の拡大に伴う売上の増加等となります。
<戦略策定のプロセス>
●シナリオ分析の結果
特定した「リスク」と「機会」について、事業への影響が大きいと判断した項目については2030年時点の財務的影響を評価しました。分析に際しては、産業革命以前と比較し2100年までに世界の平均気温が4℃前後上昇することを想定した4℃シナリオ、1.5℃前後上昇することを想定した1.5℃シナリオを主として採用しております。 今般実施したシナリオ分析では、いずれのシナリオにおいても、当社の主たる事業である建設事業に関連する市場の拡大等が見込まれることから、収益の増加が負の影響を上回る見込みであることが確認されるとともに、リスクと機会への対応策の重要性を再認識することとなりました。併せて、当社の事業戦略と整合していることを確認しました。
<移行リスク・機会の分析に使用した主要なシナリオ>
4℃シナリオ :IEAによるStated Policy Scenario(STEPS)
1.5℃シナリオ:IEAによるNet Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)
<物理リスク・機会の分析に使用した主要シナリオ>
4℃シナリオ :IPCCによるRCP8.5
1.5℃シナリオ:IPCCによるRCP SSP1-1.9
項目 | 参考元 |
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炭素税 | IEA WEO2021 |
台風発生回数(2030,2050年) | 環境省「気候変動影響評価報告書」、気象庁レポート |
豪雨日数(2030年,2050年) | 世界銀行「Climate Change Knowledge Portal」 |
平均気温(2030年,2050年) | 世界銀行「Climate Change Knowledge Portal」 |
猛暑日の増加(2030年,2050年) | 世界銀行「Climate Change Knowledge Portal」 |
労働生産性の低下率(2030年) | ILO「Working on a WARMER planet 」(2019) |
電源構成 | IEA WEO2021 |
中大規模木造建築の市場予測 | 林野庁「市場領域ロードマップ 市場領域名︓⽊材活⽤⼤型建築・スマート林業」 |
ZEBの市場予測 |
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国土強靭化市場の建設投資予測 | 内閣官房「国土強靱化年次計画2022の概要」 |
分類 | 事業への影響 | 対応策 | |||||
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要因 | 内容 | 財務影響度 | |||||
1.5℃ シナリオ | 4℃ シナリオ | ||||||
リスク | |||||||
移行 | 政策・法規制 | GHG排出に関する規制の強化 (カーボンプライシングの導入等) |
調達する建設資材や施工時のGHG排出量への賦課金・排出権取引導入による事業コストの増加 | 大 | 小 |
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物理的 | 急性物理的 | 自然災害の頻発・激甚化 |
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小 | 大 |
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慢性物理的 | 平均気温の上昇 |
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小 | 中 |
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機会 | |||||||
エネルギー源 | 再生可能エネルギー関連事業の需要増加 | 再生可能エネルギー関連の投資増加に起因する、建設需要・売上の増加 | 中 | 小 |
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製品およびサービス | 中大規模木造建築の需要増加 | GHG排出が少なく、CO2の固定化も可能な中大規模木造建築物の売上増加 | 大 | 中 |
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省エネルギー建築物の需要増加 | ZEB等のエネルギー効率が高くGHG排出の少ない建築物の売上増加 | 大 | 中 |
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市場 | 国土強靱化市場の拡大 | 防災・減災・災害発生時の復旧のための技術・製品・工事の売上増加 | 大 | 大 |
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<対応策の具体例>
●省エネルギー化の積極推進
●BCPの強化・運用
●再生可能エネルギー事業の推進
●木造建築物の技術開発
●ZEB・ZEH等に関する技術の開発・運用
●国土強靱化に資する技術の向上
【リスク管理】
当社は、事業活動に伴うリスクの把握・低減および機会の最大化に努めることが企業価値の向上につながると考えています。重要な事項については、個別案件ごとにリスク・機会を抽出・評価のうえ、経営会議・取締役会にて意思決定を行っています。
各事業部門においては、業務プロセスに内在するリスク・機会について抽出・評価のうえ、必要な対応策を検討し年度計画に反映しています。この取組の状況については四半期ごとにモニタリングを実施し、経営会議体にて報告しています。
気候変動を含む環境リスク・機会に関しては、「サステナビリティ推進委員会」における報告・議論を経て、必要に応じ経営会議・取締役会にて報告・審議しています。
【指標と目標】
当社は「エコ・ファーストの約束」や「SBT」において、温室効果ガス(Scope1,2,3)や建設混合廃棄物の排出削減目標を設定するとともに、その実績を開示しています。2021年2月にはRE100イニシアチブに加盟し、カーボンニュートラルの達成に向け、再生可能エネルギー電力の導入を積極的に推進しています。
また、事業とSDGsの関連付けを行う「ESG・SDGsマトリクス」を作成し、温室効果ガスの削減目標を含む様々な個別課題に対する指標・目標・実績を開示しています。