高速道路のリニューアル工事に革新をもたらす コッター床版工法のチャレンジ
高速道路は社会にとって動脈ともいえる重要なインフラ。近年、その老朽化が課題となっており、各地でリニューアル工事が計画されています。熊谷組は、先進の技術と卓越した現場力によって、このような社会課題の解決に貢献しています。
高速道路の老朽化という社会課題に向けて
東北自動車道は、日本最長の高速道路です。埼玉県川口市から青森県青森市まで、総距離約680km。東日本を貫く交通の大動脈として、人々の暮らしになくてはならない役割を果たしています。
近年、道路や橋、公共施設など社会インフラの老朽化が大きな社会課題としてクローズアップされています。高速道路もそのひとつです。東北自動車道でも、全線開通から三十数年が経過し、大規模なリニューアルプロジェクトが計画されています。
東日本高速道路株式会社 東北支社 十和田管理事務所管内(岩手県八幡平市~青森県平川市)で進められているリニューアル工事もこのようなプロジェクトの一環です。熊谷組では、このプロジェクトにおいて5つの橋梁の架け替え工事を担当しています。
「橋梁の橋桁の上に敷かれている床版を、耐久性の高いプレキャストPC床版に取り替える工事です。熊谷組では今回のプロジェクトで、画期的な新技術を本格的に導入しています」
このように語るのは、プロジェクトで作業所長を務める町屋孝浩。そして、町屋が語る独自の新技術が「コッター床版工法」です。
このコッター床版工法は、熊谷組をはじめとする4社で共同開発した新技術です。従来の工法と比較し、施工スピードは約2倍、施工人員は約1/2という大幅な効率向上を実現しています。
高速道路などの橋梁は、橋桁の上に床版を設置し、その上にアスファルトを舗装するというのが基本的な構造です。今回のプロジェクトは、工場で製造したプレキャスト床版と古い床版を取り替えるものです。
従来型の床版は、両端に約30~40cmの鉄筋による継手部分があり、現場でこの部分にコンクリートを打設しなければなりません。そのため、多くの労力と熟練の技術を必要としていました。また、作業が気象に左右されやすいということも短所でした。
一方、コッター床版は、この接合部に独自に開発した機械式のコッター式継手を使用。床版に埋設した金物にH型のくさびを挿入し、ボルトで締め込むことで接合します。わずか約2cmという目地幅での接合を可能にし、現場でのコンクリート打設を不要にしました。
また、床版の99%をプレキャスト化することでコンクリートの品質も高まっています。さらに部分的な取り替えも可能など、これらの優れた性能によって土木学会技術開発賞を受賞しています。
今回のリニューアル工事は、熊谷組としてコッター床版を初めて全面的に導入するプロジェクトです。工事に着手する約6か月前から、本社の技術部門、東北支店、そして町屋をはじめとする現場の技術者が一体となった検討が重ねられました。
最新の技術をいかに安全・確実に実現するか
東北自動車道でのリニューアル工事がスタートしたのは 2019年8月です。最初に着手した小坂川橋(下り線)では従来の工法を採用し、続いて小坂川橋(上り線)、新遠部沢橋(下り線)でコッター床版を導入しました。この2橋梁では、一部に従来の工法も併用し、改良も加えながらコッター床版工法による施工を進めました。町屋は次のように語ります。
「厳しい自然の中にかかる橋梁は平坦でもなければ直線でもありません。コッター床版の接合にも微妙な角度や勾配の調整が必要となり、床版の改良や施工の工夫を重ねました。既存の構造物を生かしながら、老朽化した部分を新しくリニューアルする現場ではぴたりと設計図通りにはなかなかいかないものです。そこが難しさであり、現場ならではのおもしろさでもあるのです」
高速道路のリニューアル工事は、通行規制をして行うために工期が短く限定されます。安全に確実に工事を進めるために、広大な試験ヤードを設け、そこでコッター床版を仮組みして確認し、それから現場に運んで本番の作業を行うというステップで工事を進めていきました。
巨大な床版の設置をわずか十数分で完了
そしてリニューアル工事が正念場を迎えるのは、2021年6月のこと。
4つ目の橋梁となる天狗橋(上り線)の工事から、コッター床版を全面的に導入し、継手もよりコンパクトに軽量化された新型コッターに進化しました。そして6月中旬、天狗橋でのコッター床版の設置作業がスタート。他の工程との調整もあり、作業は夜間に行われました。
煌々とライトに照らされる現場で、巨大なコッター床版がクレーンで吊られ、若い技術者たちの指示によって橋桁の上に設置されていきます。位置や高さの調整はわずか㎜単位という高精度です。そして設置が完了すると、作業員たちによって継手部分にくさびのH型金物が挿入され、ボルトで締め付けられます。
その作業を落ち着いた表情で監督する町屋はこう話します。
「現場で改善を進めているうちに作業もだいぶ習熟してきました。1枚のコッター床版の設置に要する時間は十数分です。この天狗橋では1回に5枚を設置するので1時間20分ほどで作業は完了します」
もちろん、このようなスムーズな作業の背景には綿密な準備があることは言うまでもありません。作業の順序、資材などの搬入、その仮置き場所、クレーンなど作業車の導線。現場を統括する町屋は、実際の作業を頭の中で何度もイメージし、周到に段取りを整えてきました。豊富な経験に裏打ちされた熊谷組ならではの現場力があるからこそ、先進の技術も活きてくるのです。
卓越した技術力と現場力で、社会と環境に貢献していく
さらに町屋は、現場だからこそ感じられるコッター床版工法のメリットも多くあると話します。そのもっとも大きなものは安全管理です。
従来の工法では、現場でコンクリートを打設するため、型枠を作ったり鉄筋を挿入したりするといった作業が必要でした。そのために橋桁の下の狭い空間での作業や、安全管理に非常に神経質になりました。しかし、コッター床版ではそのような作業も不要となり、施工効率ばかりでなく、安全面でも改善されました。町屋のこだわりもあって現場は常にきれいに整理整頓され、それがまた施工効率や安全性の向上につながっています。また、型枠がなくなったため、廃棄物を大幅に減らすことに成功し、環境面においても大きく貢献します。
「コッター床版工法は、現場の働き方改革にも貢献していると感じています。従来工法で行った最初の工事の頃と比べると、社員たちの残業も少なくなりました」
この現場で働く社員は十数名。東北支店ばかりでなく多様なエリアから各世代の技術者が結集され、チームワークよく現場の管理に取り組んでいます。新技術へのチャレンジというかけがえのない経験と知識は、この後各々が活躍する現場で大きく花開くはずです。
日本における高速道路の総延長距離は約9,071km(2021年3月現在)になり、今後も各地でリニューアルプロジェクトが計画されています。熊谷組では、通行規制などさらに施工条件が厳しくなる都市部の高速道路などに対応した、新たなコッター床版の開発にも取り組んでいます。
2021年秋には、現在の天狗橋に続いて、5つ目の橋梁となる西石通橋(下り線)の工事に取り組み、およそ2年半に及ぶプロジェクトは完了します。社会を支える先進的な技術がまたひとつ、熊谷組の現場から飛び立とうとしています。
工 事 概 要
工事名 | 東北自動車道十和田管内高速道路リニューアル工事 |
発注者 | 東日本高速道路(株)東北支社 |
工期 | 2019年1月6日~2022年3月22日(39か月) |
工事内容 | 床版取替 5橋 トンネル補修 21本 |
受注者 | 熊谷組・ショーボンド建設JV |
※乙型JV (分担施工型) | |
熊谷組:床版取替 ショーボンド建設:トンネル補修 |