- 支える
令和4年度防災・安全交付金(道路)工事

- 計画を聞いてすぐに、経験のない難工事になると直感した
- 通行を維持したまま、既設と新設のトンネルを地下で接合
- ラスト約100mの掘削に、8か月を費やした難工事
- 若手技術者が伸び伸びチャレンジできる環境を整える
- 全社一丸となって、未来へ続く、日々の暮らしを支えていく
- 工事概要
技術の結晶で防災・減災へ。
地域の人々の暮らしを結ぶ山岳トンネルを掘り進める。
インフラ整備を通じて多様な自然災害から命を守り、防災・減災に貢献すること。それは、建設業が果たすべき重要な使命です。
熊谷組が長野県南部で進める山岳トンネル工事は、地域の暮らしを守り、厳しい自然に立ち向かうプロジェクト。「地中接合」という初のチャレンジとなる工法を採用し、現場と本社が一体となって困難な工事に取り組んでいます。
計画を聞いてすぐに、経験のない難工事になると直感した
長野県道22号線(松川大鹿線)は、長野県南部の主要な地方道です。松川町と大鹿村の間の険しい山岳エリアを走り、特に大鹿村にとっては市街地と結ぶ重要な役割を果たしています。その22号線にある落合トンネル付近で落石が発生したのは2019年のこと。調査の結果、継続的な落石の危険性があることから、危険箇所を回避する新トンネルの建設が計画されました。熊谷組は長野県内の建設会社と3社JVを構成し工事を請け負いました。
「今回のトンネルは、計画を聞いてすぐに、これまで経験したことがないような難しい工事になると思いました」
このように語るのは、工事の作業所長を務める片桐朗です。片桐は、1981年に入社して以来、そのキャリアの大部分を山岳トンネル建設に捧げてきたプロフェッショナル。長野県を中心に、これまで十数の工事に携わってきました。今回の新設トンネルは、その経験豊富な片桐の目にも、難しさは明らかでした。
その最大の理由は、一般車両の通行を止めずに行う「地中接合」という工法にあります。計画が立ち上がった当初、既設トンネルに並行する形で新規のトンネルを掘削する案が検討されました。しかし、大鹿村側入口付近の地形が急峻で落石の危険があることが判明。そこで採用されたのが、既設と新設のトンネルを地中で接合させる工法でした。

「具体的には、松川町側に新しい坑口を設け、そこから新設トンネルを掘り進め、888mの地点で既設トンネルと接合。そして大鹿村側入口の残り約180mについては既設トンネルを利用します」
この「地中接合」は、山岳トンネルにおいて豊富な実績を持つ熊谷組にとっても初めての経験。国内の建設業界でも過去わずかな事例しかないというチャレンジだったのです。
通行を維持したまま、既設と新設のトンネルを地下で接合
新しい坑口の補強・整備が行われた後、トンネルの掘削が始まったのは、2024年6月のこと。掘削は、NATM(ナトム)と呼ばれる工法によって進められました。特殊な建設機械で山にいくつもの穴を掘り、爆薬を詰めて爆破。崩した土や岩をトンネルの外に出し、壁面の成形や補強を行います。次に、地下水が流れ込まないように壁面を防水シートで覆い、最後にコンクリートで覆い固めます。掘削工事は順調に進み、開始から9か月で約800m地点まで掘り進めました。
これら新設トンネルの掘削とともに、重要な工事となったのが既設トンネルの補強です。トンネル内を走る22号線は大切な生活道路のため、工事の間も通行を止めるわけにはいきません。通行を確保したまま、接合のための工事を実施する準備として、鋼製の特殊なプロテクターを合計14基、84mにわたって設置しました。

「鋼製プロテクターのトンネルへの採用も、熊谷組にとって初めての経験。プロテクターの構造や強度、現地での組立方法、特殊なトレーラーを使った坑内への搬入に至るまで、検討を重ねて綿密な計画を立てました」
2024年11月、鋼製プロテクターの設置が完了。そして2025年4月、熊谷組の技術者たちは、正念場となる接合部に向けた新設トンネルの掘削に着手しました。
ラスト約100mの掘削に、8か月を費やした難工事
接合部での掘削では、既設トンネルへの影響を最小限に抑えるため、繊細な技術が求められました。そこで採用されたのが、それまで用いていた発破ではなく、機械による掘削でした。しかし、順調に進む……と思われた工事は大きな壁にぶつかります。強固な岩盤が現れ、機械掘削が難航したのです。1日わずか30cmしか掘り進めないこともあり、現場に焦燥感が漂い始めました。片桐は決断を下しました。
「再び発破を使用することにしました。しかし、従来のやり方では既設トンネルへの影響が懸念されます。そこで爆薬の量を抑え分割して発破を行い、その後機械掘削を行う発破併用工法を採用ました」
さらに最終的な接合部では機械掘削にもどし、段階的に工事を進めました。そして2025年11月、新設トンネルが接合部へ到達。一般的な山岳トンネル工事であれば、まさにクライマックスと呼ぶ瞬間です。しかし、今回はまだ困難な工事が残されていたため、熊谷組の技術者たちは静かに喜びを分かち合いました。このような山岳トンネル工事の魅力を、片桐は次のように話します。
「どんなに綿密に調査を行ったとしても、山岳トンネルは実際に掘ってみないとわからない部分があります。あらゆるイレギュラーを臨機応変に乗り越え、工程通りに掘り進めていくことがトンネル技術者の腕の見せどころです」
既設トンネルとの接合部に向けた、最後の約100mに費やした期間は8か月。それまでの約800mを9か月で掘削していることを考えると、いかに難しい工事だったかがわかります。しかし、経験豊富な片桐にとっては、この難工事も事前に想定したことであり、当初の工程通りの進捗だったと言います。
若手技術者が伸び伸びチャレンジできる環境を整える
今回の現場では、片桐をはじめ入社1年目の若手から気鋭の中堅まで多彩なメンバーで施工を進めています。また、掘削の最盛期には2名の技術者が支援。現場の管理について、片桐は次のように話します。
「若手たちには貴重な経験を積んで技術を継承してほしいと考えています。実際の教育は現場に立つ副所長に任せ、私は工事全体の管理や施工方針など要所での判断、そして環境を整えることに力を入れています」
ワークライフバランスへの配慮もその一つ。作業は基本的に昼夜兼行で進めていますが、協力会社の作業員も含め残業を極力減らし、基本的に土日休みの週休2日を徹底しています。
難しい工事を効率よく進めるため、デジタル技術の導入も積極的に進めています。地形を把握しにくいトンネル内の測量においては、3次元測量を採用し、0.5mピッチという精度で形状管理を行っています。また、トンネル工事において重要となる排水処理に関しても、大型の濁水処理装置を設置。周辺の環境にも配慮しながら工事を進めています。

全社一丸となって、未来へ続く、日々の暮らしを支えていく
工事は現在、新設トンネルは既設トンネルとの接合部を補強・整備する工程を迎えています。仮設の鋼製プロテクターの解体・搬出が完了し、今後はトンネルを形成する覆工パネルを設置していきます。この最終ステップに先駆け、2026年2月、茨城県つくば市にある熊谷組の技術研究所で本社の技術部門と連携し、片桐たち現場技術者の立ち会いのもと、実証試験が実施されました。

一般的にトンネルの覆工工事は、現場で直接コンクリートを打設することによってつくられます。しかし、今回の接合部の覆工構築については、工事期間中も一般車両の通行を維持するため、セントル等の大型機械の使用が制限されていました。そこであらかじめ工場で製造したコンクリート(ダクタル)パネルを現場で組み付けるプレキャスト工法を採用することになりました。パネルの設置にはバキュームパッドを使用し、先進的な工事を安全に効率よく実現するために、全社をあげて現場をバックアップしています。
全長約1,000mの新しい大鹿トンネルを自動車で通過する時間はわずか2、3分でしょう。しかし、このような当たり前の日々を支えるために、熊谷組の技術者たちの想いが、先進の技術に結集されています。その現場で培われた知見は、人々の安全な暮らしを支えていくために、全国各地で活躍していくことになります。

工事概要
| 工事名 | 令和4年度防災・安全交付金(道路)工事 |
|---|---|
| 工事場所 | 長野県下伊那郡大鹿村落合 |
| 発注者 | 長野県飯田建設事務所 |
| 施工者 | 熊谷・浅川・吉野 特定建設工事共同企業体 |
| 工期 | 令和5年7月7日~令和9年3月31日(予定) |