- 支える
新得発電所新設工事のうち土木本工事
- 自然との共存を図り、難工事に挑む 水力発電所のリニューアルプロジェクト
- 再生可能エネルギーの拡大に貢献するプロジェクト
- 全国でも例の少ない硬く、深い岩盤の掘削工事に挑む
- 「現場の全景を見下ろしたとき、感無量だった」
- 豊かな自然環境への繊細な配慮が求められる
- 現場での技術や経験を若手社員に継承させる
- 将来のエネルギーをめぐる社会課題の解決に貢献
- 再生可能エネルギーの一翼を担う水力発電所の再開発
- 工事概要
自然との共存を図り、難工事に挑む 水力発電所のリニューアルプロジェクト
純国産の再生可能エネルギーとして水力発電所の価値が再認識されています。
その一方で、施設の老朽化という課題に直面する水力発電所が全国で数多くあります。
熊谷組が進める北海道電力の新得発電所プロジェクトは、このような将来のエネルギーを巡る社会課題の解決に貢献するプロジェクトです。
再生可能エネルギーの拡大に貢献するプロジェクト
北海道のほぼ中央、十勝平野の西北端に位置する新得町。四季折々伸びやかな風景が広がり、最近では連続テレビドラマのロケ地になったことでも知られます。日本有数の一級河川である十勝川の最上流部にあり、町内に7つの水力発電所を有する「電源の町」という横顔も持っています。
熊谷組が現在工事を進める北海道電力の新得発電所も、その十勝川水系の発電所のひとつです。このプロジェクトは、1956年に運転を開始した上岩松発電所(1号)の老朽化に伴うリニューアル工事です。隣接する土地を掘削して、延長27.0m、高さ30.65m、幅15.5mの発電所構造物を新設し、その地下空間に水車や発電機などを設置します。また、水圧管路や放水路の一部は既設流用することから、接続工事としてトンネル掘削なども実施します。
新得発電所は、これまで利用されていなかった余水放流を有効活用することにより、旧来の上岩松発電所(1号)と比較して最大出力は3,100kW増の23,100kWになります。老朽化した発電設備をリニューアルするとともに、再生可能エネルギーの導入拡大に寄与するプロジェクトです。
しかし、施工は容易ではありません。硬い岩盤を深さ25mまで掘削する難工事に加えて、隣接する上岩松発電所(1号)を稼働させたまま工事を進めるため、振動などの影響を抑える必要があります。さらに周辺には希少猛禽類であるクマタカが棲む深い森が広がり、自然環境への繊細な配慮が求められます。プロジェクトで現場の作業所長を務める野呂昌司は次のように話します。
「工事計画の全容を聞いたとき、これは難易度の高い工事になると直感しました。土木関連のリニューアル工事に豊富な経験を持つ熊谷組においても非常に挑戦的なプロジェクトだと思っています」
全国でも例の少ない硬く、深い岩盤の掘削工事に挑む
「掘削の断面が円形であれば外からの応力に対して比較的強いのですが、今回の工事は15.5×27mという四角形の断面です。それを25mの深さまで掘削するという土木工事はおそらく全国でも例は少ないのではないでしょうか。地山の支保構造を最適化するために、本社の技術部と連携して地質調査などを綿密に行い、何度も検討を重ねて安全に掘削を進める工法の検討を繰り返しました」(野呂)
準備工事がスタートしたのは2019年2月。7月から本格的に掘削を開始、深さ約1.5mずつ掘り下げ、その度に吹き付けコンクリートとロックボルトで断面を補強するという地道な作業を積み重ねていきました。
また、きめ細かく計測を行い、工事中の地形の変位を0.1ミリ単位で把握。生きもののように変化する地質とその動きを先読みしながら、地山の支保構造を最適化しました。山側の断面の想定以上の変位に対しては設計を変更し、最長15.5mのグランドアンカーを打ち込み補強しています。
「現場の全景を見下ろしたとき、感無量だった」
掘削工事の難易度が増したのは深さ7m、硬い岩盤の地層に到達したステップからです。それまでの重機による機械掘削から、発破による掘削に切り替えました。明かり工事における発破工事というとダイナミックなイメージがあるかもしれませんが、今回のプロジェクトでは自然環境や既存の発電所への影響を考慮して、振動や騒音を最小限に制御する必要がありました。
100グラム単位での火薬量の調整、火薬を設置する深さや間隔、発破の段数、1回当たりの面積など熊谷組が現場で蓄積してきたノウハウを数多く投入し、所長の野呂と副所長で発破作業を計画しました。また、既存の発電所内をはじめ複数箇所に振動計を設置し、収集したデータは次の発破作業にフィードバックさせました。さらに特に騒音・振動を考慮しなければならない箇所の掘削には、低振動の非火薬破砕剤を用いています。
「安全対策も万全、計画も周到に進めましたが、それでも発破が上手くいくか心配で眠れない夜が続き、夜間に現場を見回りに出向くこともありました。おそらく一緒に計画を立てた副所長も同じ気持ちだったと思います」
もうひとつ、水圧管路や放水路などの既存施設を流用するという条件が掘削工事を困難にしました。既存の放水路へと接続するトンネルの上部にはすでに余水路トンネルがあり、本体部分の南西の角から斜め方向に掘進し、余水路トンネルに影響を及ぼさないようにその下部を掘り抜かなければならないという難工事でした。
現場の社員が一丸となっていくつもの壁を乗り越え、掘削工事が完了したのは2020年3月。設計通りに掘削された現場の全景を見下ろしたとき、感無量だったと野呂は振り返ります。
豊かな自然環境への繊細な配慮が求められる
すでに述べているように、今回のプロジェクトでは自然環境への配慮が重要なテーマとなっています。そのシンボルともいえるのが希少猛禽類であるクマタカです。
工事の立ち上げでは、クマタカへの影響を観察しながら段階的に作業を進めました。さらに2~8月の営巣期には、騒音・振動に加えて夜間の照明など影響が最小限になるように配慮しながら施工を進めています。工事で発生する濁水の処理プラントの暖房設備に電気式の装置を採用するなど、CO2の排出量削減にも努めています。
また、発電所工事ならではの工夫としては安全面での対策があげられます。施工現場のすぐ近くに高圧の送電線があり、クレーンの旋回時の近接防止など感電を防ぐための取り組みを徹底しています。
なお、工事がスタートした2019年は地元の新得町にとって開拓120周年にあたり、その記念イベントなどに社員たちが参加するなど、地域に根ざした活動も積極的に取り組んでいます。
現場での技術や経験を若手社員に継承させる
「今回のプロジェクトでは難易度の高い施工に加えて、設計にまで踏み込んだ提案が求められるため、通常の現場よりも多い社員が配属されています」(野呂)
現場の作業所で働く熊谷組の社員は所長の野呂、2人の副所長をはじめ、総勢7人。若手社員が多いのも特徴です。緊張が続く作業が多いこともあり、社員の誕生日には誕生会を催すなど日頃からコミュニケーションの機会を増やすことを心掛けています。
「チームとして円滑に動けるように所長・副所長と若手の連携を図っています」
そう語るのはチームの要となる中堅の金子和也。その言葉を受けて入社2年目の若手、西村公宏は次のように話します。
「先輩たちが常に親身になって指導してくれます。この現場でひとつでも多くの技術を学びたいと思っています」今回のプロジェクトでは、熊谷組が長年にわたって培ってきた土木技術がさまざまに活躍しています。その技術や経験を若手社員へと継承させていくこともプロジェクトの大切なテーマなのです。
野呂は次のように語ります。
「岩盤の掘削、トンネルの掘進、設計施工などこのプロジェクトには多様な技術が凝縮されています。ここで学んだことを次の現場で必ず生かしてほしい。私も2人の副所長もそんな気持ちでみんなと一緒に仕事に取り組んでいます」
将来のエネルギーをめぐる社会課題の解決に貢献
2020年3月に掘削工事が完了し、現在、プロジェクトは発電所の構造物を構築するステージに進んでいます。この工事においても熊谷組の技術力と人間力が随所に生かされています。壁面のコンクリートは厚さ約1mに達します。現場での冬期の最低気温は-20℃に達する一方で、夏期には+35℃を超える日もあり、コンクリートの硬化熱で躯体にひび割れが発生しないように温度応力のシミュレーションを行って様々な対策を取っています。
また、全体の構造が複雑なため、所長の野呂自らが3DCADを駆使して3次元データの作成を行い、本社に依頼して3Dの縮小モデルを作製しました。この3Dモデルはパズルのように各部が色分けされ、工程に合わせて分割できるようになっています。3Dの実物を見せて説明することができ、構造や工程の確認や情報の共有などに大いに役立っています。
さらに施工ばかりでなく、構造物の設計においても熊谷組のノウハウが生かされています。たとえば放水池トンネルは本体部分と斜めに接続されるため、断面のアーチ形状が扁平となり、構造計算が複雑になります。そこで本社の土木設計部と連携し、3Dシェルモデルで設計を行い、過剰設計とならない手法を提案しました。その取り組みは北海道電力からも高い評価をいただいています。
この後も、既設発電所停止後の水圧管路との接続、別に掘削した立坑からの放水路トンネルの掘削、接続など難易度の高い施工が続き、新得発電所が完成するのは2022年6月の予定です。約3年半にも及ぶプロジェクトに込められた想いを所長の野呂は次のように語ります。
「新得発電所は、現場の私たちだけでなく、本社や北海道支店など数多くの社員の技術と知恵が結集された、“オール熊谷組”といえるプロジェクトです。この現場で新しいノウハウを蓄積するとともに、お客様の信頼を獲得し、今後も増加する水力発電所のリニューアル工事の受注に結びつけていきたいと思っています」
貴重な国産エネルギーとして、長年にわたって北海道の、そして日本の発展を支えてきた水力発電。近年、再生可能エネルギーとしてその価値が再認識されています。一方で老朽化した水力発電所も数多く、新設を含むそのリニューアルが将来のエネルギーをめぐる社会課題の解決策として注目されようとしています。熊谷組は独自に培った技術力で社会課題の解決に貢献し、お客さまとともに歩み続けます。
再生可能エネルギーの一翼を担う水力発電所の再開発
北海道電力では2020年4月、「ほくでんグループ経営ビジョン2030」を策定し、その中の重要な取り組みのひとつとして再生可能エネルギー発電の拡大を掲げています。北海道電力が保有する53か所の水力発電所は、その再生可能エネルギーの一翼を担うものです。一方、これら水力発電所の多くは経年による老朽化が進み、発電設備の更新や再開発などの検討を行っています。
熊谷組と進める新得発電所は、当社の水力発電所の中でも発電効率の高い上岩松発電所(1号)をリニューアルするとともに発電量を増強するという重要なプロジェクトです。稼働中の既設の発電所に隣接し、さらに自然環境への配慮が求められる条件のなか、強固な岩盤を掘削するという難工事を進めなければなりません。プロジェクトは順調に進んでおり、熊谷組は期待を上回る力を発揮していると感じています。このような厳しい条件が重なる水力発電所のリニューアルは、北海道電力にとっても初めてといえるような経験です。このプロジェクトでの蓄積が今後の貴重なノウハウになると期待しています。
新得水力発電所建設所
所長
小山田 和 様
新得水力発電所建設所
土木課長
武田 宣孝 様
工事概要
新得発電所新設工事のうち土木本工事
工事場所 | 北海道川上群新得町字トムラウシ(十勝ダム下流) |
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工期 | 2019年2月4日~2022年6月23日 |
発注者 | 北海道電力(株) |
請負形態 | (株)熊谷組・荒井建設(株)共同企業体 |
工事概要 | 発電所基礎工(本館躯体) 放水地トンネル 放水路トンネル ゲート立杭 水圧管路基礎工 土捨場工 |