- つくる
熊谷組 福井本店
- 創業の地での新たなチャレンジ、中高層木造建築の実現を目指して
- 熊谷組の歴史を刻む、創業の地でのプロジェクト
- カーボンニュートラルに貢献するハイブリッド構造
- 木造建築のノウハウを現場で学び、現場で培う
- 執務者と環境に配慮してNearly ZEBを実現
- 中大規模木造建築の本格展開を目指して
- 工事概要
創業の地での新たなチャレンジ、中高層木造建築の実現を目指して
熊谷組は、1898年の創業以来、その発祥の地である福井を本店としています。現在、木造と鉄骨造のハイブリッド構造による新本店ビルの建設が進められ、新たな熊谷組の歴史が刻まれようとしています。
熊谷組の歴史を刻む、創業の地でのプロジェクト
熊谷組の歴史は、1898年、創業者である熊谷三太郎が福井県で初となる発電所、宿布発電所の工事を請け負ったことに始まります。1938年には、現在の本店所在地に株式会社熊谷組を設立。その後、1964年に本社機能を東京に移してからも、この創業の地にこだわり、半世紀以上にわたって福井を本店としてきました。そして現在、老朽化に伴い、この本店ビルの建替工事を進めています。
新しく生まれ変わる福井本店は、2019年に完成した宿布発電所跡地公園と一体をなす、当社創業地での整備事業プロジェクトの一環です。延床面積1190.85㎡、4階建て。1階はエントランスホールと会議室、2階には打ち合わせスペースに加え、熊谷組の歴史と創業の精神を伝える展示室を設置します。そして3、4階が事務室という構成です。
熊谷組が描く未来のオフィスビルを具現化するために、先進のノウハウと技術が凝縮されています。なかでも大きなテーマとなっているのが持続可能な社会への貢献であり、SDGsの17目標のうち10項目に対応し、熊谷組の本店にふさわしい次世代型都市型コンパクトオフィスの実現を目指しています。
カーボンニュートラルに貢献するハイブリッド構造
「このプロジェクトのことを聞いたとき、ぜひ自分で手がけてみたいと思いました。その理由は、伝統ある本店の建替であること、そしてもうひとつは、“木”という構造です」
そう語るのは、今回のプロジェクトで作業所長を務める佐部哲治。建築技術者として北陸エリアで多くの経験を積んできた佐部にとって、今回のプロジェクトは初めて所長として携わる現場になります。
新本店ビルの最大の特徴は、木造と鉄骨造のハイブリッド構造にあります。木造は、カーボンニュートラルに貢献する建築構造であり、今後市場の拡大が見込まれます。熊谷組では、住友林業との協業のもと中高層木造建築の実現を目指しています。その実現に向けて重要なチャレンジとなるのが、この福井本店です。
「木造のオフィスビルを実現するためにはいくつもの壁を越えなければなりません。そのひとつが耐火性能です」(佐部)
木造建築物には厳しい耐火構造が要求されます。新本店ビルでは、当社が独自に開発した木質耐火部材「断熱耐火λ-WOOD🄬(ラムダウッド)」を初めて柱と梁に採用。さらに木質のCLT(直行集成材)耐震壁を併用し、北陸の厳しい冬の積雪荷重にも耐えられる都市型木造建築を追求しています。
木造建築のノウハウを現場で学び、現場で培う
着工は2020年9月。基礎工事、1階をはじめとする鉄骨の組み上げと進み、2021年1月、正念場となる2~4階の木造部分の施工が始まりました。
「私たちが数多く手がける鉄骨造と違い、木造ならではの工法が必要となります。ここからは我々にとって初めてのステージでした」(佐部)
木造施工にあたっては、木造住宅で豊富な経験を持つ住友林業の技術者と共同で進めました。施工は、基本的には木造住宅と同じように金属プレートなどを使って柱や梁を組み上げていきます。梁は最長で8mというロングスパンです。これほどの規模の部材は戸建ての住宅では見られず、プロジェクトメンバーにとっては初めての経験でした。
なかでも佐部にとって印象的だったのは、木造ならではの精度の高さです。集成材からなる柱や梁を各所に接合する際、これらの木部材に貫通穴を設け、鋼製のガゼットというプレートを介してドリフトピンという金属棒を貫通させます。このガゼットプレートの穴径はドリフトピンの穴径よりやや大きくなっていますが、木部材とドリフトピンの径はぴったり同寸法です。接合部分に“遊び”を設ける鉄骨造の経験から考えると、常識外ともいえる精度です。
「正直言って最初は半信半疑でした。しかし、やってみてわかったのですが、木は鉄と違って柔らかく軽い素材。その場で微妙な調整が可能なのです」(佐部)
このように木造建築に関する新たな知識を吸収するとともに、自分たちが培ってきたノウハウの重要さに改めて気づくこともできました。たとえば床面に柱を据えつける工程では、コンクリートなどに精通した知識が重要になりました。
開発された先進の技術や材料を実際に現場で活用し、よりよいものづくりを行うのが現場力です。プロジェクトメンバーは、現場で学び、現場で培いながら、熊谷組の次代を担う技術と経験を蓄積していきました。
執務者と環境に配慮してNearly ZEBを実現
新本店ビルのもうひとつの大きな特徴が、脱炭素社会に向けた取り組みとして注目されるZEB(Net Zero Energy Building)です。このZEBとは、建物で消費する年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指した建物のことです。今回のプロジェクトでは、ZEBのカテゴリーのうちNearly ZEBを実現しています。これらの技術を担当する建築環境技術部の淵﨑礼奈は次のように話します。
「新本店ビルは、北陸特有の日本海型気候に加え、敷地が狭小などZEBを目指すには多くの制約がありました。熊谷組の技術を結集し、省エネと創エネを組み合わせて一次エネルギー量を17%まで削減させています」(淵﨑)
省エネではまず、建築の負荷抑制を図るための外壁の断熱強化です。設備機器においては、空調の熱源に高効率空気熱源ヒートポンプを導入し、その搬送動力を低減する工夫を行っています。このほかにも、湿度と温度を分けて空調負荷を処理する潜顕分離空調機やタスク&アンビエント照明など、多様な手法を採用しています。創エネについては、屋上の太陽光発電パネルに加え、南側壁面にもライトスルー型両面発電タイプのパネルを設置しました。
また、外壁に設けたライトシェルフなど、自然光を効率よく室内に取り込む工夫や執務者の快適性を高めるべく床吹出放射空調も採用しています。このような明るく健康的な空間の創出も新本店の大切なコンセプト。社員が働く場所を自由に選べるABW(Activity Based Working)を導入するなど、スマートウェルネスオフィスを実現しています。
さらに新本店ビルは、省エネにより自立可能な建物にすることでBCP(事業継続計画)にも対応し、蓄電池や雨水利用の設備も備えています。
中大規模木造建築の本格展開を目指して
新本店ビルの建物内装には福井県産の越前和紙や杉材を使用しています。エントランスホールの意匠には、当社創業の工事である宿布発電所で実際に使われた石を再利用しています。創業の地に根ざし、地域とともに歩むオフィスを目指しています。
このように多彩な機能を実現するために、複数のワーキンググループが活動し、プロジェクトは進められています。佐部は次のように話します。
「緊張で眠れない夜もあります。私が一番気をつかっているのは現場での安全です。木造と鉄骨造のハイブリッド構造ということもあり、安全管理にもこれまでにない視点が求められます。安全の大切さを、その責任を担う作業所長になって改めて実感します。また、人材の育成も作業所長にとって重要な役割。今回の現場では、入社3年目と1年目の2人の若手社員が貴重な経験を積んでいます。もちろん、私自身にとっても大きな経験となるはずです。これからも熊谷組を代表するような建築に携わっていきたいと思っています。将来的にはさらに大規模な木造建築へのチャレンジも魅力的ですね」(佐部)
工事概要
熊谷組福井本店新築工事
場所 | 福井県福井市中央2丁目6-8 |
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工期 | 2020年9月~2021年7月 |
構造 | 鉄骨造+木造 地上4階 耐火建築 |
用途 | 1階 エントランスホール、会議室 2階 展示室、打合せスペース 3、4階 事務室 |
延べ床面積 | 1190.85㎡ |
環境配慮技術
建築 | 日射遮蔽、昼光利用(ライトシェルフ)、高断熱、木質材料等 |
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給排水衛生 | 小水量器具、雨水利用 |
空調・換気 | 高効率空気熱源ヒートポンプ、潜顕分離空調、床吹出放射空調、BEMS等 |
電気 | 高効率トランス、照明制御、蓄電池、太陽光発電、(ライトスルー型両面発電タイプ) |