ステークホルダーとの対話(2022年6月14日開催)

【2022年6月14日 開催】有識者意見交換会

熊谷組では、長期的な成長を実現し、持続可能な社会の形成に貢献していくために、サステナビリティ経営を推進しています。
熊谷組のサステナビリティの考え方をお伝えし、取組みを進めるうえで必要な視点や、熊谷組がより社会のお役に立てるとしたらどういったことかなど、ステークホルダーの皆様よりご意見をいただく機会を積極的に設けています。
今回の意見交換会では、様々な分野に精通した外部有識者をお招きし熊谷組のサステナビリティの取組みの全体像と、具体的な事例としてカーボンニュートラルをお伝えし、ご意見をいただきました。

有識者意見交換会参加者

有識者(写真前列左から)
鈴木  亮 氏 (日本経済新聞 編集委員)
吉高 まり 氏 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
        フェロー プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト)
名和 高司 氏 (一橋大学大学院 経営管理研究科 客員教授)

ファシリテーター(写真前列右)
笹谷 秀光 氏 (CSR/SDGsコンサルタント、千葉商科大学 基盤教育機構 教授)

熊谷組(写真後列左から)
建築事業本部長 上田 真、副社長 小川 嘉明、社長 櫻野 泰則、副社長 嘉藤 好彦、
管理本部長 日髙 功二、土木事業本部長 岡市 光司

“難所難物”に挑む、サステナビリティへの取り組みを広く伝えていくために

[サステナビリティへの取り組みについての印象]

“規定演技”では及第点。これからは“自由演技”で力を発揮してほしい

笹谷 櫻野社長から熊谷組のサステナビリティに向けた取り組みの紹介がありましたが、皆さんはどうお考えですか?

名和 全般的にきめ細かくしっかりと取り組んでいて、通信簿的には十分に及第点だと思います。ただ、体操競技に例えると規定演技的な部分がまだ多いような感じがしますね。最近、サステナビリティへの取り組みでは、カーボンニュートラルやZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)など、ゼロを目指すことは当たり前のようになっています。これからの熊谷組には、さらに踏み込んでネットプラスを生み出すような、自由演技の部分で力を発揮してほしいと思います。その意味では、中大規模木造建築ブランド「With TREE」などはとても興味深い取り組みだと感じました。

笹谷 名和さんの規定演技・自由演技という発想は面白いですね。SDGsを盛り込んだ国連合意文書「2030アジェンダ」の前文や目標3には“Well-Being”というワードが使われています。健康や幸福、福祉などと訳される言葉ですが、このあたりは非常に自由演技に近い分野だと思っています。

吉高 私は櫻野社長が言われた「難所難物に挑む」という創業者の言葉がとても印象的でした。当たり前のこととはいえ、カーボンニュートラルにしてもサーキュラーエコノミーにしても、それを実現することはまさに「難所難物」のはずです。現在の取り組みばかりでなく、その難所難物に熊谷組がこの先どう挑んでいくのかという将来像みたいなものが伝わってくるとさらに印象が強まるように思います。

鈴木 確かに紹介のあった「コッター床版工法」や「ネッコチップ工法」、「ブラックバークペレット」はいずれも素晴らしい技術だと思います。しかし、メディア側の視点から見ると、果たしてそれが社会に十分に伝わっているのかという課題があります。たとえば、トヨタは「モビリティ・カンパニー」と言っていますが、熊谷組もそれくらい社会がはっと驚くような将来像を掲げ、そこにこれらの取り組みを重ねていくようにすると発信力が高まるのではないでしょうか。

櫻野 鈴木さんがおっしゃる発信力は、ご指摘のとおり当社が非常に苦手にしているところです。私のような世代は「世のために人のために仕事をしていれば、黙っていてもおのずと社会が認めてくれるだろう」と思いがちですね。しかし、最近の若い社員を見ているとかなり変わってきたように思います。

コッター床版工法 ブラックバークペレットの開発 ネッコチップ工法
意見交換会の様子

[ESG・SDGsマトリクスを活用した取り組み]

網羅性をもって整理し、一点突破的に発信するのが効果的では?

笹谷 熊谷組では、ESG・SDGsと事業における取り組みをマトリクスの形で網羅性をもって整理しています。この検討には私も監修者として関わったのですが、皆さんはどのような印象を持ちましたか?

吉高 海外の投資家から見てもわかりやすいので、よい取り組みだと思います。SDGsの目標との紐付けも明確なので、社員の皆さんも理解しやすいのではないでしょうか。

鈴木 確かにわかりやすく整理されていますが、ただ実際の業務でSDGsの17目標すべてをまんべんなく取り組むというのは現実的ではないような気もします。それよりも一点突破的に発信する方が社会には伝わりやすいのでは? たとえば、建設業界でも課題とされている「女性活躍」などに焦点を絞って発信し、それを起点にして理系女子学生に訴えかけるといったやり方が考えられます。

名和 “一点突破”ということでは、先ほどグループビジョンの説明の中で櫻野社長が話した“しあわせ品質”という言葉が非常に素敵だなと思いました。この“しあわせ品質”は、建築事業にとっても土木事業にとっても、つまり熊谷組の経営の根幹に深くつながっているような言葉だと感じます。笹谷さんが言われたSDGsのWell-Beingにつながるものがありますよね。ぜひ、大切にしてほしいと思います。

鈴木 「社会から求められる建設サービス業の担い手」も素晴らしいキーワードと思いました。

笹谷 このマトリクスがきっかけになって熊谷組の社員の間でSDGsへの意識が高まりつつあるという話も聞いています。

上田 おっしゃるとおりです。私は建築事業を担当していますが、最近、現場でもSDGsに関することを所長が朝礼で話したり、マトリクスを独自に作って掲示したりすることが増えてきました。現場の社員ばかりでなく、協力会社の作業員さんにも浸透しつつあると感じています。

ESG・SDGsマトリクス
  • ファシリテーターの笹谷秀光氏
  • 取組について説明を行う社長の櫻野

[カーボンニュートラルへの対応]

リスクばかりでなく、チャンスであることも認識すべき

名和 先ほどカーボンニュートラルについても説明がありまして、スコープ1・2を合わせたCO2排出量はサプライチェーン全体でみると3%未満ということでした。非常によく分析していて、熊谷組の真摯な姿勢が伝わってきました。課題をあげるとすると、やはり自社以外のCO2排出量となるスコープ3でしょう。このスコープ3のいわゆる下流については、ZEBの推進など比較的しっかり取り組んでいるようですが、上流での取り組みが十分に示されていません。ここはどの企業にとっても非常にむずかしい部分であるのですが、たとえば廃材の利活用など、サーキュラーエコノミーとも関連させて整理するとよいと思います。また、このようなサイクルを通じて、熊谷組がつくった建物などの利用者に新しい気づきや行動の変容などをいかに与えていくかもこれから考えていくべきテーマだと思います。

吉高 私は国連のCOP12からほぼ毎回参加していますが、世界的な流れとしては、これからの10年あまりの間でCO2排出量をいかに削減するかに注目が集まっています。名和さんもおっしゃったとおり、スコープの1・2ばかりでなく、スコープ3についてもみんなで連携していこうというのが大きな流れであり、ESG投資においてもそのような企業が評価されています。
また、カーボンニュートラルというと、どうしてもリスクに意識がいきがちですが、同様にビジネスチャンスであることもしっかり認識すべきです。このような新しいイノベーションについては、実は世界的にも日本の企業の技術力に注目が集まっています。熊谷組も、このリスクとチャンスを改めて整理して、わかりやすく伝えるようにすると投資家からの評価が高まるように思います。
また、皆さんもご存じのとおり、我が国でもプライム市場に上場する企業は、TCFDに沿った情報開示が実質的に義務化されました。熊谷組も、CO2排出量は決して少なくないので、しっかりと取り組みを進めていくべきでしょう。今後は生物多様性を意識した情報開示も視野に入れておくべきです。

笹谷 おっしゃるとおりで、気候変動のみでなく生物多様性にも注意しておく必要があると思いますが、カーボンニュートラルの取り組みについて鈴木さんはどうお考えですか?

鈴木 熊谷組の取り組みの中で私が素晴らしいと思ったのは、石炭火力発電の混焼材として活用できる「ブラックバークペレット」ですね。石炭火力発電は、カーボンニュートラルではネガティブな位置づけになっていますが、最近、ウクライナ情勢などの変化によって風向きが変わってきたように感じます。「ブラックバークペレット」は、ある意味“環境にやさしい”石炭火力発電の実現に貢献できるわけです。現実的な落としどころの解として、このような取り組みも積極的に発信していくべきだと思います。

岡市 この「ブラックバークペレット」については現在、実用化に向けて実証実験を進めているところです。1か所に集中して大量生産し、各地へ輸送すると、CO2を大量に排出してしまうことになるので、全国に分散させて各地の石炭火力発電の効率化に貢献する地産地消のビジネスモデルを考えています。

吉高 その場合、“地産地消”と表現するよりも、地域のレジリエンスに貢献するような“分散型”という言葉を使った方がよいと思います。いずれにしても、再生可能エネルギーを伸ばしていくためにはバイオマス発電も重要であり、その視点からも「ブラックバークペレット」は熊谷組のイノベーションとして発信していくべきでしょう。

笹谷 SDGsで考えると、このカーボンニュートラルの問題は、目標の13(気候変動)や7(クリーンエネルギ)9(技術革新)、15(陸上資源)だけに限らず、さまざまな目標に関連しています。たとえば4(教育)、17(パートナーシップ)もそうですね。非常に広範に及ぶむずかしいテーマでありますが、そのカーボンニュートラルをこのような場で議論しようとすること自体、熊谷組のチャレンジングな姿勢が表れているように思いますね。

【参考】脱炭素の取組み 【参考】資源循環の取組み
  • 吉高まり氏
  • 名和高司氏

[情報開示とエンゲージメントについて]

若い世代の社員がワクワクと働けるような環境づくりを

鈴木 情報開示については、やはりメディアを積極的に利用すべきです。櫻野社長がテレビに出演して、何を話すのかと思ったらSDGsについての話ばかりだった……みたいなことがあってもよいかと思います。売上高ではかなわないかもしれませんが、SDGsについては業界ナンバーワンといったようなイメージをいち早く打ち出してしまうような戦略も面白いですね。また、グローバル地域によって発信の仕方を変えてもよいのではないでしょうか。この分野は吉高さんの専門だと思いますが、欧州と米国では投資家が注目する情報も異なりますので、地域に合わせて濃淡を変えるというのも有効なやり方だと思います。

吉高 先ほどサーキュラーエコノミーの取り組みとして「ネッコチップ工法」の紹介がありました。かなり以前に開発した技術ですが、最近になって再び注目されているというお話でした。まさにそのとおりで、価値観 というものは時代や世代によってどんどん変わってくるもので、それがダイナミックマテリアリティといわれるものです。私が大学で教えている学生はまさにZ世代です。先日、「なぜSDGsってみんなが騒ぐのかよくわからない」という話になって驚きました。彼らにとってSDGsの目標はごく当たり前のことで、なぜ社会がそんなに大騒ぎするのだろうかというのです。そこで私は話したのです。「そのとおりで、日本の企業はずっと以前から当たり前にやってきた。しかし、それをみんなに上手に伝えてこなかったので、今一生懸命コミュニケーションしているのだ」と。日本の企業は、これまであまり広く資本市場に向けて情報発信をしていなかったように思います。今後はもっと積極的にコミュニケーションを図っていくべきです。熊谷組にも、今回の意見交換会のような対話の機会をさらに増やしていってほしいですね。

櫻野 確かにそのとおりですね。しかし、投資家の皆さんとの情報交換となると、ついつい財務面の話になりがちなのです。

吉高 「今日はESGの話をしましょう」と切り出してみてはいかがですか。こちらから投資家の意識を変えていこうという姿勢も大切だと思います。

名和 この社会とのエンゲージメントについては、大きく2つのポイントがあると思います。1つは、IRについてです。今回、非財務におけるいろいろ素晴らしい取り組みをお聞きしました。今後、このような非財務の取り組みを発信していくことは言うまでもなく重要ですが、投資家に向けて発信する場合には、ぜひ、財務面の成長に紐付けて話してほしいと思います。なぜならば、今、櫻野さんがおっしゃったように、まだどうしても大部分の投資家は財務に目が行きがちなのですね。そこを上手に紐付けて熊谷組らしいストーリーをつくって伝えていってほしいと思います。
もう1つのポイントは、ER(エンプロイー・リレーション)、つまり社員のエンゲージメントです。熊谷組が社員向けに行ったSDGs意識調査を見ますと、50代・60代ではやはり「気候変動」への関心が高いのですが、若い世代では「健康と福祉」、「働きがい」などを大切に考えています。吉高さんの言われるとおり、価値観が変わってきているのでしょうね。これからの熊谷組を支えていく、ミレニアルやZ世代の社員たちがプライドを持ってワクワクしながら働けるような職場づくりにぜひ取り組んでいってほしいと思います。

笹谷 最後にファシリテーターとして私から補足的な話をしますと、SDGsは「混迷の時代」の羅針盤になりつつあるように感じます。というのも、SDGsが国連で採択された2015年以来、世界は、気候変動、そしてコロナ禍、ウクライナ危機と大きな事態に直面していますが、この3つはいずれもSDGsの目標と絡めて理解すると世界がよくわかります。これからもサステナビリティへの取り組みを考える時には、SDGsを「羅針盤」として使っていってほしいと思います。

  • 鈴木亮氏
  • 闊達な意見のやり取りが行われました

[熊谷組の参加者からの感想]

サステナビリティ経営をさらに充実させ、これまでにない情報発信へ

岡市 今日、笹谷さんからお話があったように、私たちはSDGsの17の目標をどうしても単独で考えがちで、そのつながりをまだよく見つけられていない課題があることを感じました。また、吉高さんのお話を聞き、熊谷組はさまざまな潜在能力を持ちながらも、それをうまく引き出せていないことに気づきました。新しい取り組みも重要ですが、今持っているものを改めて見つめ直し、それを情報発信していきたいと思います。

上田 当社の建築事業では、中大規模木造建築やZEBに力を入れ、お客様からの関心も高いように感じます。しかし、実際の設計施工になりますと、コスト増などの問題で採用されにくいという悩みがあります。カーボンニュートラルに関わるスコープ3の話を聞き、お客様への提案を工夫することで新たな可能性が拓けるのではないかと感じました。

日髙 今日も話題になりました人的資本経営については当社でもスタートしている取り組みもあります。これからさらに力を注いで充実させていきたいと考えています。

小川 20年以上前から取り組んできた技術が、目線を変えるとSDGsにつながるなど、今日、お話を聞いて自分の中でいろいろ整理することができました。また、今私たちが取り組んでいるサステナビリティの取り組みが「難所難物」であるというお話を聞いて勇気づけられました。直面する課題も多いのですが、諦めることなく挑み、そして社会へ発信していくことの大切さを改めて認識しました。

嘉藤 先ほど名和さんからご指摘いただいたとおり、若い社員のSDGsの意識は私たちの世代とは明らかに違うと私自身も実感しています。また、もう一つ情報を追加しますと、何度か話題に出ました「ネッコチップ工法」には、伐採木のリサイクルに加えて、現地の表土を用いることで地域生態系の保全にもつながるという特長があります。「難所難物」や「しあわせ品質」といった私たちが大切にしてきた熊谷組のDNAを高く評価していただき改めて自信につながりました。

櫻野 つい最近、静岡県の新東名高速道路の現場に行ってきました。すると、現場の事務所に手製の看板が作られていて、「日本の大動脈を守ろう!」という所長のメッセージとともに、この現場の仕事がSDGsのゴールの3や9、8、12に紐付けされているかしっかりと掲示しているのですね。熊谷組にもこんな発想をする作業所長が増えてきて正直驚いています。熊谷組の最前線では、若い社員がサステナビリティ経営を自分ごと化して仕事に取り組んでいます。このような環境をさらに充実させることによって、これまでにないような情報発信につなげていきます。今後もこのような皆さんとの意見交換の場を積極的に設けていきたいと思います。本日はありがとうございました。

  • 所属・役職・内容は取材当時のものです。
感想を述べる熊谷組の参加者
Sustainability

サステナビリティ