わたしたち熊谷組グループは持続可能な社会の形成に貢献し、安全と品質、生産性を向上させる技術の開発に取り組みます。同時に社員一人ひとりの個性と能力を活かし、活力のある企業を目指します。
「技術力」と「人間力」――。
人々が集い、ふれあいながら安心して心豊かにくらすことのできる場所をつくるために、わたしたちはこのふたつを掛けあわせた「独自の現場力」を高めます。

福井県内で進行する5つの北陸新幹線延伸工事

福井高柳高架橋(2019年5月)
新北陸トンネル(大桐)(2019年5月)
北陸新幹線工事所 工事所長 高橋秀典

1964年10月1日、東海道新幹線が開業しました。計画当初は、「実現困難」の意味も込めて〈夢の超特急〉と呼ばれましたが、6時間半かかっていた東京・大阪間を約4時間で結んだその速さに、人びとは〈夢〉が〈現実〉になったことを体感しました。
 以来55年、今日では東京・新大間の所要時間は2時間半を切り、新幹線の路線網も全国に伸びています。現在も整備新幹線5路線のうち開業を目指して3本の新幹線工事が行われています。なかでも注目を集めるのが北陸新幹線延伸工事です。
 北陸新幹線は、東京から上信越・北陸を経由し、大阪までを結ぶ延長約700㎞の路線です。東京・金沢間はすでに開業し、現在は2022年度末の完成を目指して金沢・敦賀間を建設しています。
 そして今、熊谷組は福井県内で新幹線の4つの高架橋とーつのトンネルの建設工事を進めています。5つの工事の延長は約10㎞。これは今回の金沢・敦賀間における北陸新幹線延伸工事の総延長のおよそ一割に相当しています。熊谷組の実績に加え、長年培ってきた経験や技術など総合的に高い評価を得た結果だといえます。
 北陸新幹線の5つの工事を統括する、北陸新幹線工事所の高橋秀典所長は、「福井県は熊谷組の発祥地ですから、創業120周年の節目にこうして地元に貫献できることは嬉しい」と今回の工事に特別な思いを語りました。

巨大橋桁が上空で交差点をまたぐ「押し出し工法」

新北陸トンネル作業所 作業所長 近藤祐二
高柳高架工事所 作業所長 小永浩二

熊谷組が進める北陸新幹線工事のひとつ福井高柳高架橋。現場は福井市の中心部に位置し、福井駅からも近いエリアで、工事延長約2・6㎞。周囲は交通量も多く、店舗なども含んだ居住地です。
 現場を指揮する高柳高架作業所の小永浩二所長は、「高架橋工事としてはオーソドックスな工区です」とにこやかに話しました。しかし、難題は車の絶えない交差点の上空をまたぐように橋桁を架ける作業です。そこで採用されたのが、足場の上で製作したコンクリート箱型桁を、道路上空で交差道路の向こう側にある橋脚に押し出すという「押し出し工法」です。
 作業は安全のため、交通障害なども生じないよう夜間通行止めにして行いました。長さ55m、重さ約1500トンというコンクリート箱型桁を交差点南側の足場上で製作し、それを前方北側へゆっくリスライドさせて交差点をまたいだ橋脚の上に架けます。作業自体は単調だが、40mほどの移動に30名以上の作業員が深夜に数時間かけて行うということを考えれば、工事の難しさが想像できるでしょう。この作業を二晩ずつ4カ所で行いました。
 小永所長が工事を振り返り、「この工法を採る現場はあまりないので、経験者が少なく、予想以上に難工事となった」と話しました。また「1500トンもある構造物なので沈下させたり、途中で中断するわけにはいかないので、作業は慎重の上に慎重を期した」と言います。
 この高架橋の完成は2019年夏を見込んでおりますが、この現場の北側で他社が施工している新たな九頭竜川の橋梁や他の高架橋とは、2020年春に1本の高架橋としてつながる予定です。新幹線の高架に沿って新たな県道も新設されます。新幹線と道路が一体化した構造物は国内でも例はありません。完成すれば日本初となります。

「押し出し工法」施工状況

①「押し出し工法」施工前
②夜間通行止めを行い施工開始
③深夜施工完了
④施工後の状況

冷静な判断力で軟弱地盤と大量の水に対応

今回、熊谷組にとって唯一のトンネル工事となった新北陸トンネルは、福井県を嶺北地方と嶺南地方に分ける「南条山地」および「敦賀湾東縁山地」を貫くトンネルです。熊谷組が担当するのは、全長約⑳㎞のトンネルを6つに分けた工区のうち、起点側から3工区目(大桐工区)で、本坑延長3605m、斜坑延長483mを施工します。トンネルはNATM工法(New Austrian Tunneling Method)*1を採用しました。
 最大の難敵は地盤にあります。特に大桐工区の地質は著しく変化し、途中には柳ヶ瀬断層群が存在します。脆弱な断層の亀裂には大量の地下水が含まれているため、掘削に伴い大量の湧水が発生しました。当初、この溢れ出る水との格闘に時間を取られて工事が中断しました。毎分8トン、最大で毎分13トンの水が坑内に流れ出ます。本坑は斜坑を下った先にあるので、放置すればトンネルはたちまち水没します。その状態は今も変わりませんが、現在は清濁分離の処理設備を設置し、8インチのパイプを2本、6インチのパイプを6本使用して、ダムで使用する強力なポンプで湧き出る水を汲みだしています。
 工事では、時に予測をはるかに超えた想定外の事態が生じます。これはまさにその例だが、新北陸トンネル(大桐)作業所の近藤祐二所長は、周囲が驚くほど冷静に対処してきました。その理由を淡々とこう話します。
「飯山トンネル*2で得た経験、技術、知識が活きています。そのときの苦労に比べれば、あわてることなく、どんなことにも対処できます」と。
また、そのときに同じ現場で苦労を共にした協力会社の技能者もこの工事に参加しているので、彼らを主要な場所に配置しているのだという。経験がこの難工事を着々と推し進めている。まさに「土木は経験工学」と言われる所以でしょう。
 2019年5月、担当する工区も残り200mほどになりました。2019年8月上旬には隣接する工区に到達する見込みです。

*1 NATM(ナトム)
掘削部分にコンクリートを吹き付けて迅速に硬化させ、岩盤とコンクリートとを固定するロックボルトを岩盤奥深くにまで打ち込み、地山自体の保持力を利用してトンネルを保持する工法。
*2 飯山トンネル
北陸新幹線の飯山駅と上越妙高駅聞にあるトンネル。複雑な地質構造や地質条件で難工事となりました。

坑内の側部に配管された複数のパイプで水を外へ汲みだす
掘削に伴って発生した湧き水を清濁に分離する処理設備

厳しい工事状況のなか熊谷組は夢の実現を目指す

2022年度末の完成に向けて、全ての作業所が厳しい工事状況に追われています。それは開業時期が3年前倒しになったことに加え、人手不足と福井県内での生コンクリートの供給がひっ迫していることです。建設技能者の不足は、ここ数年、建設業界に共通した問題ですが、特に北陸などの地方ではより深刻だといいます。そのため、常に技能者を求めて国内の至るところに声をかけています。また地元新聞によれば、生コンの確保は、発注者や福井県が業界団体の協力を得て、生コンの材料となる骨材の増産や仮設生コンプラントの設置、生コンプラント船による生コン増産などの対策を講じたといいます。これらを受けて熊谷組では芦原に仮設の生コンプラントを設置し、今夏から付近の新幹線延伸工事に生コンを供給することになりました。
 最後に高橋工事所長にこうした実情を踏まえ、今後について話を聞きました。「今回の現場は、トンネル、高架橋、営業線近接工事など、鉄道建設工事の全てがあります。これらはどれも資格を必要とする工事ですので、多くの社員や建設技能者にその資格を取得してもらいました。いまの工事をきっちりとこなし、敦賀から先の延伸工事につなげ、その資格やここで得た経験を活かして欲しいです」と、期待を込めて語りました。
 北陸新幹線の延伸により、今後新たなネットワークが形成され、人やモノの流れが変わり、新たな産業も生まれるに違いありません。北陸新幹線の延伸工事について、地元の50代の男性に尋ねると、「自分が小学生のころ、田んぼには北陸新幹線の駅誘致の看板が立ててあった」と話します。「自分の街に新幹線が走るのを想像し、胸がわくわくした」といいます。また、90歳になる彼の父親は、「自分で歩けるうちに」と、既に開業した金沢・長野間を新幹線で往復し、「これが福井に来るのか」と感慨深そうに話したそうです。いま、計画から半世紀近くを経て、ようやく地元の人々の夢が実現しようとしています。
 北陸新幹線が多くの人の未来を乗せて走る夢であるなら、熊谷組にとっても残りの期間を安全第一で、確実に仕事を完成させることが大きな未来につながっていくことになります。

芦原温泉駅高架作業所 作業所長 今石忠昌

芦原温泉駅高架橋他
現場は福井県のなかでは一番東寄りに位置しています。JR「芦原温泉駅」を中心とした高架橋と橋脚工事。住宅街のなかでの工事であること、さらに営業線近接工事なので、近隣住民の生活や電車の通過に支障のないよう最善の努力をして作業に臨んでいます。若い世代への知識と経験の継承にも意欲。

JR山室BI作業所 作業所長 渕上幸彦

北陸幹山室Bi新設他
JR西日本北陸本線と交差する123mの桁架設工事。営業線近接工事に必要な有資格者の手配や資機材の確保に苦労しつつも、発注者の指導のもと協力会社と共に知恵を出し合い、難工事を推進しています。今秋からは線路上空での作業が続くので、これまで以上に安全意識を高め'チーム山室'が一丸となって安全に竣工を目指しています。

坂井高架作業所 作業所長 堀田謙一

坂井高架橋他
全長2.5㎞の長大な作業現場。後発の発注のため、資材や技能者の調達が思うように進まず苦慮しています。工期も3年前倒しで厳しい状況ですが、現場の誰もが明るく、効率よく仕事ができるよう常に気を配っています。

工事概要

福井高柳高架橋他

発注者 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構大阪支社
工事内容 工事延長2,615m(高崎起点415km746m~418km361m)
ラーメン高架橋35連・RC橋脚31基・RCT桁54連

新北陸トンネル(大桐)

発注者 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構大阪支社
工事内容 トンネル掘削(NATM)斜坑L=483mトンネル掘削(NATM)本坑L=3,605m
インパートコンクリートL=3,605m覆工コンクリートL=3,605m

坂井高架橋他

発注者 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構大阪支社
工事内容 工事延長2,513mラーメン高架橋33連
橋梁(上部)RC場所打T桁橋57連
橋梁(下部)RC橋脚28基橋梁(下部)RC連結橋脚2基

芦原温泉駅高架橋他

発注者 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構大阪支社
工事内容 工事延長1269m
高崎起点402㎞380mから403㎞772m
(うち402㎞730m~402㎞853m、L=123mを除く)

北陸幹山室Bi新設他

発注者 西日本旅客鉄道株式会社(鉄道・運輸機構委託)
工事内容 跨線橋の下部工及び上部工新設工事
上部工/全長123mの3径間連続合成桁(34m+55m+34m)、
北陸本線上横断する馬桁はクレーン架設、3径間の主桁は横取り架設