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国庫補助事業 創成川処理区Ⅳ-01000(北45条東1丁目ほか)下水道新設工事

- 社会課題である下水道の老朽化に技術×人による独自の“現場力”で挑む。
- 社会課題の解決に向けた、都市での下水道管新設工事
- 1つのシールド機で南北に掘り進む、前例の少ない工法
- 都市の地下で進む、大スケールかつ精緻なシールド工事
- AIを駆使した環境装置など、新しい技術にも積極的にチャレンジ
- 作業所のマネジメントにも新しい風を吹き込む
- 難工事で培われる知見が、熊谷組の次代の技術を形づくっていく
- 工事概要
社会課題である下水道の老朽化に技術×人による独自の“現場力”で挑む。
日本では社会インフラの老朽化が社会課題としてクローズアップされています。一方、都市部の工事ではさまざまな制約から新しい技術的ブレークスルーが求められます。
熊谷組が北海道札幌市で進める下水道シールド工事は、そのような課題に真っ正面から向き合うプロジェクト。作業所長をはじめ若い技術者が発揮する現場力を全社でサポートし、難工事に挑んでいます。
社会課題の解決に向けた、都市での下水道管新設工事
北海道札幌市。196万の人々が暮らす都市において、欠かすことのできない役割を担っている社会インフラが下水道です。生活汚水の排除のほか、大雨による浸水から街を守っています。
近年、全国で話題になっているように、札幌市においてもこの社会インフラの老朽化が大きな課題。1970年代に整備され共用後約50年を迎える下水道管が増え、その更新工事が進められています。

札幌市北東部の住宅街で熊谷組が進めている下水道シールド工事もこのようなプロジェクトの一つです。現場で工事を統括する作業所長の三浦大樹は、工事の概要を次のように話します。
「周辺の道路整備に合わせて、既設の下水道管を移設・更新する工事です。主要道路の地下約10mを約3.8knにわたって掘り進めます。泥土圧シールド工法によって掘削するトンネルの内径は3.5mです」
この泥土圧シールド工法とは、シールド機の前面で地中を掘削し、切削した土砂に泥土材を混ぜながら進みます。そしてシールド機の後部でコンクリートブロックを組み立ててトンネルの外壁を形成していきます。
1つのシールド機で南北に掘り進む、前例の少ない工法
「通常のシールド工法では、地下のトンネルの端にシールド機を降ろす発進立坑をつくり、一方向に掘り進めます。しかし、本工事では、立地的な問題や工期の短縮などを考慮した結果、工区の途中に発進立坑を設置し、そこから南北に掘り進めていく計画となっています」(三浦)


発進地点はトンネルの軌道上に位置する公園敷地。ここに発進立坑をつくり、その中でシールド機を組み立て、最初に北側に向かって約1km掘り進めます。到達後、北端の立坑からシールド機を引き上げ、発進立坑まで運搬・再投入。続いて南端までの約2.8kmを掘り進めます。通常、1つのシールド機は1回のみの使用ですが、本工事では2回使用することになります。
「そのため、シールド機の引き上げ・再組立など、これまでにないノウハウが必要となり、本社の技術部門とも連携して綿密に検討を行いました」(三浦)
都市の地下で進む、大スケールかつ精緻なシールド工事
2023年3月にスタートした工事は発進立坑基地の整備や掘削から始まり、2024年5月にはシールド機の組立や防音ハウスの建築に着手。同年9月からいよいよトンネルの掘削が始まり、2025年5月現在はもうすぐ北端に到達するという段階です。
トンネル内にはレールが敷設され、このレール上を移動する台車によって掘削した土砂やセグメントを運搬しています。「セグメント」とは、トンネルの外壁を形成するコンクリートブロック。あらかじめ工場で製作され、現場に輸送されます。
これまで北海道内にはセグメントの製作に対応する工場がありませんでしたが、熊谷組では本工事のために新たに依頼。輸送距離を縮めることで効率を高め、CO2削減にも貢献しています。


レールの先端部には、操作台やさまざまな装置を搭載した複数の台車が連なります。そして最先端にあるシールド機がカッターヘッドを回転させて地中を削っていきます。シールド機の直径は約4m。それに対して掘削に要求される精度は上下5cm・左右10cm(トンネル外径)というレベルです。
地域の暮らしを支えるために、街の地下深くで、大スケールかつ精緻な工事が進められているのです。
AIを駆使した環境装置など、新しい技術にも積極的にチャレンジ
発進立坑基地は住宅地に位置するため、ハウスを防音にし、タッチパネル式のデジタルサイネージを設置するなど、近隣へのさまざまな配慮を行っています。また、防音ハウス内の限られた空間の活用として、構造を一部2階・3階建てにするといった工夫もしています。
現場を統括する三浦は、土木部門の中でも若手の所長であり、新しいアイデアや技術に積極的にチャレンジしています。
たとえば、台車で運搬してきた掘削土砂を地上の貯留装置に移送するスライド装置もその一つです。従来の技術では、クレーンで台車ごと土砂を吊り上げて地上の装置に移動していました。この新装置では、台車の底がスライドして土砂を立坑内に設置した貯留槽に移し、そこからポンプを用いて地上に移送しています。


「効率性や省スペースといったメリットもありますが、私が新装置に着目した一番の理由は安全性です。クレーン作業をなくすことで作業員の安全性が高まると判断しました」(三浦)
また、環境への配慮にも最新のデジタル技術を駆使しています。工事で出る濁水は法律で定められている基準値に戻して排水しなければなりません。この濁水処理にAI技術を活用し、設備の制御を自動化しています。
北端の立坑では、交差する既設下水管の水位が想定外に高く、難しい工事になりました。この工事でも三浦は、若手とアイデアを出し合いながら独自の工夫を重ねました。
作業所のマネジメントにも新しい風を吹き込む
今回の工事は、三浦にとって、作業所長として着工当初から任される初めての現場。現場スタッフの取りまとめや若手技術者の育成にも自分なりのスタイルを意識しています。
「若手と接するにあたっては、できるかぎり自分自身で考え創意工夫する機会や時間を持てるようにしています。長い目で見れば、その方が本人たちの成長につながるはずです」(三浦)
また、ワークライフバランスにもこだわり、作業所長の判断で土日を休みにしています。あらかじめ週5日稼働を想定し、みんなで知恵を出しながら効率的な働き方を工夫しています。
難工事で培われる知見が、熊谷組の次代の技術を形づくっていく
「黒部の太陽」に象徴されるように、トンネル工事は熊谷組にとって得意分野です。
今回の難工事にあたっても、本社の技術部門はもちろん、北海道内の他現場の技術者も惜しみなくサポートするなど、全社を挙げて取り組んでいます。一方、現場では、掘削土砂の状況を日々視認し、時には手に取って感触を確かめるなど、五感を研ぎ澄ませた現場力を発揮しています。
「下水道の工事はなかなか人の目にふれる機会はありませんが、社会のインフラを支える、なくてはならない技術です。土木の技術者としてのやりがいと誇りを感じます」(三浦)
まもなく北端への掘削が完了し、2025年秋からは南端に向けた工事が始まります。南端への掘削は約2.8kmと長く、地層も変化し、より困難な工事が予想されます。
三浦たちは「これからが正念場」と気を引き締めています。
こうして培われる経験や知識は若い技術者に継承され、やがて熊谷組の次代の技術を形づくっていくはずです。

工事概要
国庫補助事業 創成川処理区Ⅳ-01000(北45条東1丁目ほか)下水道新設工事
発注者 | 札幌市 下水道河川局 事業推進部 管路保全課 |
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施工場所 | 札幌市東区北45条東1丁目~北18条東2丁目 (発進立坑:北37条さくら公園内) |
工期 | 2023年3月9日~2027年2月28日(予定) |