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トンネル発破作業の完全自動化に向けた親ダイ装填の機械化

2025年08月01日

株式会社熊谷組(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:上田 真)は、山岳トンネル工事における切羽作業の安全性向上と自動化を目的として、爆薬の遠隔装填システムにおける「親ダイ装填の機械化技術」を開発しました。

本技術は、ニシオティーアンドエム株式会社(本社:大阪府高槻市、代表取締役社長:北 俊介)、株式会社キヨモトテックイチ(本社:宮崎県日向市、代表取締役:清本 康夫)の協力のもと実現したものです。

1. 開発の背景

山岳トンネル工事では、機械化による作業の省力化と安全性が図られているものの、依然として切羽付近における落盤・土砂崩壊災害が発生する可能性は高く、重大災害に繋がることが多いです。特に、発破方式における爆薬の装薬作業は、肌落ちや崩落の発生の可能性が高い切羽に密着しての長時間の人力作業です。
また、すべての孔に爆薬及び込め物を挿入し、込め棒で突いて装填する作業の繰り返しは、疲労度の高い作業となり、作業環境や姿勢なども厳しい状況での作業となるため、装薬作業は、かなり苦渋性の高い作業です。

当社では、これらの危険性の回避のため、装薬作業をできるだけ切羽から離れて行うこと、作業姿勢の改善、装薬の機械化・自動化を目的に、爆薬の遠隔装填システム(写真-1)※1の開発・実用化を行ってきました。
1996年より開発を始め、2001年より現場にて本格稼働し、現在まで自社・他社を含め32現場で実績を重ねてきました。

従来のシステムでは、切羽から1.5m以上離れた位置(写真-2)から、親ダイ(雷管をつけた爆薬)を装填パイプ先端にセットして、人力により発破孔内へ挿入していました。挿入後は手元のボタン操作のみで、増ダイ(親ダイと同一孔に装薬する爆薬)・込め物が後方の遠隔装填装置よりホースを経由して自動で圧送・装填し、装薬作業が完了します。
しかし、親ダイ装填は人力であるため、完全な無人化には至っていませんでした。

今回の開発では、当社の参画している内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)※2」にて実用化を目指している無線電子雷管※3を利用した親ダイを使用することにより、これまで起爆に必要な脚線あるいは導火管があるために、人力によらないと装薬ができなかった親ダイの装薬作業を機械化するシステムを開発し、試験施工を行いました。

写真-1 爆薬の遠隔装填システム
写真-1 爆薬の遠隔装填システム
写真-2 遠隔装填による爆薬装填
写真-2 遠隔装填による爆薬装填

2. システム構成

親ダイを機械装填するために開発したシステムは、親ダイを装填パイプの先端に供給する「親ダイ供給装置」と、供給された親ダイを装填パイプにて発破孔内に挿入する「親ダイ挿入装置」で構成されます。

写真-3 試験施工の状況
写真-3 試験施工の状況

(1)親ダイ供給装置

親ダイ供給装置(写真-4)は、親ダイを複数本納めたカートリッジと親ダイ1本ずつを親ダイ挿入装置のガイドパイプ内に供給を行う押出し機構で構成されます。
親ダイ挿入装置の動きに連動し、親ダイの供給を行います。

(2)親ダイ挿入装置

親ダイ挿入装置(写真-5)は、発破孔に装填パイプを挿入するためのローラー回転による送り機構と親ダイと装填パイプを発破孔にスムーズかつ正確に挿入するためのガイドパイプで構成されます。
親ダイを送り込んだ装填パイプの後端には、当社開発の爆薬の遠隔装填システムの爆薬装填ホースが接続されるので、そのまま引き続いて増ダイおよび込め物の装薬へと作業を進めることができます。

3. 試験施工

試験施工は、親ダイの供給・挿入装置からなる機械化したシステムをバックホウベースのクローラドリルのガイドセルに搭載し、機械による遠隔操作で親ダイを挿入し、続けて従来の爆薬の遠隔装填システムと連携して、増ダイ・込め物の装填を行う一連の装薬作業を行いました。

なお、試験施工は既施工区間のトンネル側壁に試験用の削孔を行い、模擬爆薬(親ダイは模造品の無線電子雷管と模擬爆薬)を使用して行いました。その結果、人力作業を一切介さずに一連の装薬作業をスムーズに行えることを確認しました。

写真-4 親ダイ供給装置
写真-4 親ダイ供給装置
写真-5 親ダイ挿入装置(パイプ送り機構)
写真-5 親ダイ挿入装置(パイプ送り機構)

4. 今後の展開

当社は現在、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」において、無線電子雷管システムの社会実装と標準化に取り組んでいます。今回開発した親ダイ機械装填技術と無線電子雷管を組み合わせることで、切羽への立ち入りを必要としない「完全自動化された装薬システム」が可能となります。

今後は、更なる効率化・省力化や安全性の向上を図るため、今回開発したシステムを複数台搭載した専用機を開発(図-1)し、装薬作業の完全自動化を目指して、今後も技術開発を進めていきます。

図-1 装薬作業の完全自動化(専用機)のイメージ
図-1 装薬作業の完全自動化(専用機)のイメージ
  1. 爆薬の遠隔装填システム
    山岳トンネル工事の発破掘削における装薬作業を切羽から離れて行うことにより、作業の安全性向上と効率化を実現したシステム
  2. 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)
    内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクト
    https://www.pwri.go.jp/jpn/research/sip/sub-assignment_a.html
    SIP第Ⅲ期研究開発テーマとして採択された「研究開発テーマa-3:トンネル発破等の危険作業の自動化・無人化に係る研究開発」において、トンネル発破等の危険作業の自動化・無人化実現を目指し、無線電子雷管システムの実用化ならびに、電子雷管の標準化を行う。
  3. 無線電子雷管「ウインデット®Ⅱシステム」
    ウインデットは日油(株)が開発した無線電子雷管で、日油(株)の商標登録。

お問い合わせ先

本リリースについてのお問い合わせ先

株式会社熊谷組 経営戦略本部 広報部
電話:03-3235-8155

技術に関するお問い合わせ先

株式会社熊谷組 土木事業本部 技術統括部 トンネル技術部

https://www.kumagaigumi.co.jp/contact/tech-solution/