機体に依存しない吹付けコンクリートの遠隔操作システムの開発
2024年03月08日
株式会社熊谷組(代表取締役社長 櫻野 泰則 本社:東京都新宿区)は、作業員が切羽から離れた安全でクリーンな環境下で吹付けコンクリートを施工することを目的に開発した「吹付けコンクリートの遠隔操作システム」をリニューアルし、汎用機械にも容易に実装可能な「機体に依存しない吹付けコンクリートの遠隔操作システム」を開発しました。九州電力株式会社発注の黒川第一発電所工事において実装施工を行い、「切羽災害ゼロと吹付け作業における作業員の曝露粉塵の低減」に加え、「稼働現場への普及率向上」を目指した施工の実現性を確認しました。 |
1. 開発の背景
これまでの「吹付けコンクリートの遠隔操作システム」は、事前に遠隔操作システム専用PLC制御盤や比例電磁弁等を吹付け機に搭載した専用機を使用するため高額な費用を要するとともに汎用性が低いことが懸念されていました。加えて機体には映像や動力、センサー等の配線や配管を要し、これらのメンテナンスが必要であることと200ms程度の映像遅延が吹付けオペレータにストレスを与え、実用性に向けて課題がありました。さらに、ON-TRACK式の操作室は坑内での機動性に欠けていました。
これらの課題解決と新たに開発した技術を取り入れ、「吹付けコンクリートの遠隔操作システム」をブラッシュアップし、「機体に依存しない吹付けコンクリートの遠隔操作システム」を開発しました。
2. 技術の概要
今回開発した「機体に依存しない吹付けコンクリートの遠隔操作システム」は、これらの課題を解決するため、以下の改良を行いました。
- ①汎用機械に容易に搭載可能な遠隔操作用制御盤(図.1)
吹付け機に搭載した遠隔操作用制御盤で吹付けロボットのコントロール信号をLAN変換し、操作室と無線LANで通信します。操作室側に配置したコントロールボックスとPLC制御器で吹付けロボットを簡単に遠隔操作できます。遠隔操作用制御盤は工場や現場でも装着可能で吹付け機本体の大幅な改造を必要としないメリットがあります。
- ②低遅延で高詳細な画像伝送が可能な映像ユニット(写真.1,図.2)
映像ユニットはPTZ機能搭載カメラとモバイルバッテリー、PTZ操作用無線ボックス、映像用無線ボックス、エアシャワーリングを筐体に収納し、筐体背面と底部に取り付けた強力マグネットで鋼製支保工や吹付け機エレクタブーム等に固定します。カメラユニットの配置自由度が高まり、オペレータの希望に応じたカメラ配置が可能となります。映像無線機(5GHz)はフルHD映像を操作室に遅延なく伝送することが可能です。エアシャワーリングには吹付け機本体に装備したエアホースリールからエアを供給し、吹付け粉塵の付着を防止します。
- ③機動性に富む小型移動式操作室(写真.2,写真.3,写真.4)
操作室は坑内移動の取り回しの良さを優先させ、ワンボックスカーの後部座席を改造し、ディスプレイや通信機器等を配置します。また、車内に大容量バッテリーを搭載し、ディスプレイや通信機器に電力を供給します。
- ④ノズルワークシステムによる遠隔操作時の負担軽減
オペレータの手元操作の負担軽減を目的として、吹付けノズルの前後・左右回転をPLC制御盤でタイマー制御する自動ノズルスウィング機能を付加しました。
- ⑤吹付けガイダンスシステムによる遠隔操作時の立体感の補完と吹付け厚さを可視化(図.3,図.4)
吹付け機本体にミニコン内蔵カメラを複数台設置し,カメラが坑内に常設しているレーザーマーキングシステムから鏡面に照射された照射点を検視することでカメラ位置(3次元座標)を同定した後,ノズル先端から吹付け面に照射する緑色レーザーポインタの動きを連続撮影(30fps)しながら照射点を3次元座標に即時変換し,ディスプレイ上に吹付け面とノズルとの距離やノズルの方向,吹付け厚さをリアルタイムに可視化表示します。
3. 効果
掘削直後の切羽は、地山のゆるみにより岩塊の肌落ちや崩落の危険性が高く、この技術はオペレータが掘削直後の切羽に接近することなく、コンクリートの吹付けが可能であるため、切羽崩落災害リスク回避に高い貢献度を有しています。さらに、粉塵曝露環境を大幅に改善するため、快適な労働環境での作業を提供できます。加えてノズルワークシステムがコントロールボックスの煩雑な手元作業を軽減することから、オペレータの負担軽減にも効果的です。また、通常吹付けとほぼ同等のサイクルを確保できています。
実際に遠隔作業を実施したオペレータや協力会社から、「遠隔吹付け作業を日常的に運用しても問題ない」との評価を得ています。
4. 今後の展開
今回改良した「機体に依存しない吹付けコンクリートの遠隔操作システム」は、無線通信やバッテリー駆動を主体としたシステム構成で、汎用機械に容易に搭載できることから、稼働現場に適用しやすくなりました。今後は稼働現場への普及率を高めるとともに、より効率的なシステム改良を継続し、安全・衛生環境に加え、生産性向上を目指したいと考えます。
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