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西郷発電所 ダム通砂対策工事
- 水力発電の未来を支える「ダム通砂運用」のための大規模改修工事
- 流域全体で土砂の動きを総合的に管理
- 工事中も発電を止めるわけにはいかない
- 限られた期間で困難な施工を成し遂げる
- エネルギーの未来を支えるパートナーとして
- お客様コメント 水力発電を持続的に運用していくために
- 工事概要
水力発電の未来を支える「ダム通砂運用」のための大規模改修工事
宮崎県では、九州電力や学識者、地域の人々と一体となって、「総合土砂管理」という先進的な取り組みが進められています。流域全体で土砂の動きを管理することによって河川を本来のような姿に近づけようというこの取り組みにおいて、中核的な役割を担っているのが、熊谷組が進める西郷ダムの大規模改造工事です。
流域全体で土砂の動きを総合的に管理
宮崎県の北部を流れる耳川は、東臼郡椎葉村の三方山を源に諸塚村、美郷町、日向市を経て太平洋に注ぐ長さおよそ95kmの河川です。豊かな自然の中を流れ、古くから多くの人々が流域でくらし、地域に大きな恵みをもたらしています。そればかりでなく、耳川には7つのダムと発電所があり、九州電力の水力発電における発電量の20%以上を担い、九州の人々の生活を支える大切な存在となっています。
耳川に甚大な被害をもたらした台風14号が日本を襲ったのは2005年9月のこと。ダムの設計時に想定していた最大規模の水量を超えてしまうほどの雨量を記録し、過去最大の浸水被害が発生しました。大小約500カ所の山の斜面が崩壊し、大量の土砂が河川やダム貯水池に流れ込み、抜本的な対策が必要となりました。
そこで宮崎県は、九州電力や学識者、地域の人々と協議を重ね、「総合土砂管理」を推進することにしました。この「総合土砂管理」とは、山地からダム、河川、さらには海岸まで、流域全体の土砂の動きを本来の自然な姿に近づけることで、洪水に対する安全度を高め、多様な生物が棲む昔のような河川環境に近づけようという考え方です。
耳川でも流域が一体となった協働の取り組みが進められており、耳川における総合土砂管理の中核ともいえるのが、九州電力によるダムの改造です。九州電力では、耳川下流部にある2つのダムの大規模な改造を決定し、そのひとつである西郷ダムの工事を熊谷組JV が担うことになりました。
工事中も発電を止めるわけにはいかない
「九州電力様とは何十年にもわたるお付き合いがあり、近年でも新たな受注に向けて様々な活動を進めてきました。西郷ダムの改造は、九州電力様だけでなく地域社会にとっても非常に重要な工事であり、ぜひ受注したいと考えていました。当社のダム工事における豊富な経験と真摯な姿勢をお伝えできた結果が受注に結びついたと思っています」西郷ダムの工事で初期の作業所長も務めた九州支店の副支店長、宮脇悟は受注の経緯をこのように話します。
この西郷ダムの改造工事は、「ダム通砂運用」を実現するためのものです。台風などによる大雨の時に、ダムの水位を下げることで貯水池を本来の川のような状態に近づけ、上流から流れてくる土砂をダム下流へ通過させるという新しい運用方法です。具体的には、既設の8つのゲートのうち中央の4つを撤去し、ダムの一部を約4.3m切り下げて大型洪水吐きゲートを新設します。既存のダムに新たにダム通砂機能をもたせる改造は日本で初めてのチャレンジでした。
「水力発電は社会を支える重要なインフラですから、たとえ工事中でも発電を止めるわけにはいきません。このような緊張感のある制約のもと、通砂という最新の技術を実現しなければならない。そこがこの工事の難しさでした」(宮脇)
限られた期間で困難な施工を成し遂げる
着工したのは2011年11月。貯水池に水をたたえたまま工事を進めなければならないため、流れる水を迂回させる仮締切をダム上流部に設置する施工から着手しました。
西郷ダムの改造工事では、工程管理がきわめて重要なミッションとなります。というのも、河川および工事の安全を確保するために、河川内で行う工事は原則的に渇水期となる11月~翌年5月の7カ月間しか実施できないからです。現在、西郷ダムの作業所長を務める中村正雄は次のように話します。
「工事期間中はダムの上下流に作業構台などを設置して作業を進めます。ところが、これらの施設は、その年の5月になって中断期に入る前に毎回撤去しなければならないのです。したがって、安易に工事の積み残しができず、進捗管理がきわめて重要でした」
現場でのマネジメントは、豊富な経験と細心の目配りが求められる仕事です。熊谷組JVはこれまで様々な現場で培ってきた経験をもとに、想定されるあらゆるリスクを洗い出して最適な管理に努めました。そして、なによりも大切である「安全」にも熊谷組の強いマネジメント力が発揮されており、西郷ダムの現場では、着工から47万時間以上に及ぶ無災害記録を継続しています。
また、中村は「お客様と協力会社、地域の人々という3つの信頼関係を大切にして、バランスよく工事を管理していくのが作業所長の仕事」と話します。集落の祭りに参加したり、近隣の草刈りをしたり、さらには機会あるごとに「通砂」の重要性を説明するなど、近隣地域とのコミュニケーションにも積極的に取り組みました。
中村は次のように振り返ります。「地域の方から大雨のときに水位が上がらず安心できたと言っていただき、ダム改造工事の意義を理解し喜んでいただけたと感じ、地域に貢献できた実感が湧き、仕事を誇りに思いました」
エネルギーの未来を支えるパートナーとして
こうして工事もほぼ計画どおりに進み、着工から7年あまりが経った2018年5月現在、最終の仕上げとなる周辺整備のステップを迎えています。西郷ダム大規模改造工事への九州電力様の評価は高く、続いて大分「女子畑発電所大山川取水堰」改造工事の発注をいただきました。また、2017年7月の九州北部豪雨では、大分・夜明ダムの管理所が被災し、その復旧にも熊谷組が駆けつけました。
「次の新しい工事にも結びつくなどお客様の評価も高く、苦労のしがいがあったととても嬉しく思っています。西郷ダムで蓄積したダム改造に関する技術は、熊谷組にとって大きな財産。技術資料をしっかりまとめて、後輩の技術者たちに役立つようにしたいと考えています」(中村)
西郷ダムの工事で得た蓄積は、熊谷組だけの財産ではありません。ダムの通砂運用や大規模な改造は今後全国各地でニーズが高まっていくはずです。また、国内ばかりでなく東南アジアなどでの新規ダム建設でも活用されていく可能性を秘めた、水力発電の未来を支える重要な技術のひとつなのです。
お客様コメント 水力発電を持続的に運用していくために
電力を安定的に供給することは、私たち九州電力にとってなによりもの使命です。水力発電を止めないように、西郷ダムの工事ではダムに水を貯めたまま施工しなければなりませんでした。そのような状況のもと、当社でも初となる通砂運用の技術を導入できたのは、熊谷組ならではの豊富な経験があったからこそと思っています。
最初に西郷ダムの現場に足を運んだとき、狭いヤードに資材などが整然と片付けられていることに感心しました。困難を極める工事をほぼ計画どおり安全に進めることができたのは、施工技術に加え隅々にまで気を配る行き届いたマネジメントの成果だと感じています。
私は昨年、ダムに関わる国際的な会議に参加し、西郷ダムの工事概要を発表しました。とても注目度が高く、各国の専門家から質問が寄せられました。工事期間中も海外からの視察者が何組も西郷ダムを訪れています。
工事概要
西郷発電所ダム通砂対策工事(土木工事および土木除却工事)
工事場所 | 宮崎県東臼杵郡美郷町西郷小原字川戸口1355-1 (耳川水系 西郷ダム) |
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工期 | 2011年9月16日~2018年7月31日(土木工事) |
発注者 | 九州電力(株)耳川水力整備事務所 |
施工者 | (株)熊谷組・飛島建設(株)・(株)志多組共同企業体 |
工事概要 | ダム改造は、既設洪水吐の中央4門を撤去し、越流天端を約4.3m切り下げて、クレストローラーゲート2門を新設する |