鋼管膨張型ロックボルト「RPEロックボルト」の機械打設システムの開発

2023年10月24日

株式会社熊谷組(本社:東京都新宿区、代表取締役社長 櫻野 泰則)は、山岳トンネル工事における切羽作業の無人化・遠隔化・機械化の一環として、鋼管膨張型ロックボルトである「RPEロックボルト」を利用した機械打設システムを株式会社ケー・エフ・シーの協力を得て開発しました。
現在施工中のトンネル工事で試験施工を実施し、効果の確認を行いました。

1.開発の背景

写真-1 人力による注水拡張作業

山岳トンネル工事では、機械化による作業の省力化と安全性が図られているものの、依然として切羽付近における落盤・土砂崩壊災害が発生する可能性は高く、重大災害に繋がることが多いです。

熊谷組では2015年より山岳トンネルの切羽作業に関して、効率化・省力化や安全性の向上を目的とし、施工サイクル一連の遠隔化・自動化を目指して技術開発に取り組んでいます。これまでに長崎県雲仙普賢岳や阿蘇斜面の災害復旧工事で当社が培ってきた「無人化施工技術」を取り入れ、既往の技術の改良を行いながら開発を行っています。

一般的にロックボルトの打設作業は、写真-1に示すように、人力による苦渋作業かつ切羽近傍の高所での危険を伴う作業であり、改善すべき作業のひとつです。そこで、ロックボルトの施工性の向上を目的として、ボルト挿入から定着作業までを機械化するシステムを開発し、試験施工を行いました。

今回の開発対象としたロックボルトは、一般的に用いられているモルタル等による定着材式ではなく、主に湧水対策や早期の支保性能発揮を期待する場合に用いられる鋼管膨張型ロックボルト1「RPEロックボルト」としました。従来どおりドリルジャンボによるロックボルト孔の削孔後に、ボルトの挿入と高水圧ポンプによるロックボルトの拡張作業を専用治具により機械化し、人力作業を介さない一連の作業となるように開発しました。

2.システム構成

RPEロックボルトの機械打設のため、注水用専用取付け治具と水圧制御ユニット、専用セントラライザを新たに開発しました。

1.注水用専用取付け治具

写真-2 注水用専用取付け治具

注水用専用取付け治具は、写真-2に示すように、ボルト拡張のための注水ヘッドとボルト挿入のための角度調整用バネ(2箇所)で構成され、これをドリフタに連結します。

この専用治具の注水ヘッドにボルトをセットし、水圧によりボルトを把持した状態で、ボルトの挿入を行います。角度調整用バネを2箇所設けることで、削孔した孔中心と挿入するボルトの軸心を一致させやすくし、ボルト挿入・注水拡張作業をスムーズかつ正確に行えます。

2.水圧制御ユニット

写真-3 水圧制御ユニット

ボルト把持のための水圧は、RPEロックボルトの拡張に必要な水圧(通常25MPa)より小さく、かつボルト拡張が生じずにボルト把持が確実に行える水圧(10MPa)としました。

水圧制御ユニットは、通常の高水圧ポンプに接続することで10MPaでも水圧を保持できる機構を備えたものです(写真-3参照)。これにより、10MPaと25MPaの2段階の水圧に設定できます。

注水によるボルト拡張作業は、ドリルジャンボの操作室で削孔・ボルト挿入を終えたオペレータがリモコン操作により行うことができるため、地上でロックボルトをドリフタにセットする作業員とドリルジャンボのオペレータの2人で打設作業を進めることができます。

3.専用セントラライザ

写真-4 専用セントラライザ(座金セット)

専用セントラライザは、写真-4に示すように、あらかじめ角座金(150×150)をセットできる構造としました。

座金は、セントラライザに磁石により取り付けられ、ボルト挿入時には注水専用取付け治具の先端の注水ヘッドによりセントラライザからボルト挿入とともに押し出されて、吹付けコンクリート壁面に設置されます。

3.試験施工

現在施工中のトンネル工事にて、施工性(作業性や打設時間)、品質(所定の位置へのロックボルトの挿入、座金設置、注水による定着、引抜耐力)、専用治具の耐久性の確認のための試験施工を行いました。なお、試験施工では、通常の支保機能を損なわないよう、標準支保パターンのロックボルトを打設した箇所の中間位置に、試験施工用のロックボルトを打設することとしました。

試験施工の状況を写真-5に示します。試験施工後に引抜き試験による品質確認を行い、いずれもロックボルトの品質基準を満足することが確認できました。

試験施工では、削孔誘導システムを活用し、いずれも30~40秒程度でスムーズなボルト挿入が行え、挿入後のボルト注水拡張も含めて、概ね90秒程度で打設完了しました。

今回の開発は、RPEロックボルトを対象に、ロックボルト専用機械でなく、汎用機のドリルジャンボに専用治具を取り付けるだけで、ボルト挿入・注水拡張による定着作業を機械化し、人力作業を介さない一連の作業をスムーズかつ効率的に行えました。

(a)ボルト・座金セット状況
(b)ボルト・座金セット状況
(c)水圧制御ユニット
(d)水圧制御ユニットのリモコン操作
(e)ボルト挿入状況
(f)ボルト挿入・座金設置状況
(g)ボルトの注水拡張状況
(h)打設完了

写真-5 試験施工状況

4.今後の展開

山岳トンネルの切羽作業に対し、特徴的な災害である落盤・土砂崩壊災害リスクを回避するため、当社で培ってきた無人化施工における遠隔操作技術を活用し、切羽作業の遠隔化・自動化を図るとともに、更なる効率化・省力化や安全性の向上を目指して、今後も技術開発を進めていきます。

【工事概要】

  • 工事名:一般国道452号芦別市鏡トンネル工事
  • 発注者:国土交通省北海道開発局札幌開発建設部
  • 工事場所:北海道芦別市
  • 工期:2021年3月3日 ~ 2025年3月21日
  • 施工者:熊谷・宮坂特定建設工事共同企業体
  • 工事内容:工事延長L=4,560m トンネル延長L=2,102m(掘削断面積58m2

※1 鋼管膨張型ロックボルト
膨張前の折りたたまれた状態の鋼管内に、高圧水を注入して膨張させることによって孔壁と密着させて所定の摩擦力を得る摩擦定着式ロックボルトをいう。湧水が多い硬岩~中硬岩の地山や、早期に支保効果が必要な膨張性の地山等で適用されている。

【出典】土木学会:トンネル・ライブラリー第26号トンネル用語事典2013年版

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