地震後の建物の継続使用に配慮した 復旧しやすい鉄筋コンクリート造梁の構築手法を実証

2021年02月25日

 株式会社熊谷組(取締役社長:櫻野泰則)は、東京工業大学と共同で、梁主筋とコンクリート間の付着を部分的に除去し、コンクリートに発生するひび割れを一部に集約させることで補修性を高め、地震後の建物の継続使用性を向上させる鉄筋コンクリート(以下、RC)造梁の研究開発に着手しその効果について実験により実証しました。
 極めて稀に起こるような大地震が起こった場合、RC造建物では広範囲にわたって損傷が発生し、たとえ補修すれば継続的に使用できる場合であっても、その補修費用は膨大となり、経済的に大きな損失を被ることが懸念されます。また、事業継続計画(BCP)の観点からも、地震後に早期に事業を復旧させるため、迅速な建物の補修が望まれます。本工法は、これらの問題点に対し、建物の地震後の補修コストの低減や、BCPに大きく貢献できるものと考えています。

1.開発の背景

 近年、建築物の長寿命化が求められており、地震後も建築物を継続して使用することができるよう、修復性の向上が期待されています。しかしながら、RC造建物は大地震によって建物に大きな変形が生じると、ひび割れの範囲が拡大し、たとえ倒壊に至らなくても、ひび割れの補修の際には膨大な費用が発生してしまう恐れがありました。
 ひび割れ補修のコストが増大する要因の一つは、ひび割れが部材全体にわたって広範囲に発生することであり、部材に生じるひび割れを一部に集約することができれば、一部分だけを補修すれば良く、補修コストの増大を防ぐことができると考えられます。 そこで本研究では、RC造のひび割れ範囲を抑制する方法の一つである、主筋の付着除去を梁部材に適用し、梁に生じるひび割れを部分的に集約させ、補修性の高い梁部材を実現させるとともに、付着除去に伴うエネルギー吸収能の低下は座屈拘束ブレース(BRB)で補う架構を提案し、1層1スパンの架構試験体の構造実験を通してその構造性能を確認しました。

2. 開発実験の概要

 開発実験の試験体の概要を図1に示します。試験体は超高層RC建築物を想定した1/2スケールのBRB付き1層1スパンの架構であり、梁曲げ降伏先行型として設計されています。柱梁接合部、およびBRBとの接合部である梁端部の損傷を回避するため、2段目主筋を途中でカットオフし、相対的に梁端部の主筋量を増加させることで、塑性ヒンジを梁中央部側に移動させることを意図したヒンジリロケーション梁となっています。
 地震時の損傷制御のために主筋の一部について付着の除去を行っています。付着除去は主筋をシース管に通し、内部にコンクリートが入り込まないように、端部をテープで塞ぐことで行い、極力煩雑な作業が発生しない仕様としています。主筋の付着除去の様子を写真1に示します。

図1 試験体概要
写真1 主筋の付着除去の様子
図2 載荷試験の状況

 実験結果の例を図3に示します。主筋の付着除去を行ったDB試験体では、梁中央部の損傷(ひび割れが大幅に減っており、補修が容易なものとなっている事がわかります。このように補修のしやすい部材とすることで、建物の復旧に要する時間が短くなることが期待され、BCPに大きく貢献できるものと考えています。

図3 梁の損傷状況(1/100rad.除荷時)

3. 今後の展開

 従来の耐震設計では、極めて稀に起こるような大地震時には、建物の構造部材に多少の損傷が出ることはやむを得ないものとされていますが、本研究のように、損傷部位を補修のしやすいところに集める事により、補修のしやすいRC梁を構築する事により、地震後の建物の継続使用性に配慮した建物を提供できるように、今後も継続的に研究開発を続けていきます。

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