無人化施工VR技術の開発 シンクロアスリートの無人化施工技術への適用

2019年11月15日

株式会社熊谷組(代表取締役社長 櫻野 泰則)は、独立行政法人国立高等専門学校機構東京工業高等専門学校(校長 新保 幸一:東京都八王子市)と共同で、遠隔操作建設機械の傾きや振動・音を映像と同時にリアルタイムに提供する「無人化施工VR技術」を開発しました。

これにより建設機械の遠隔操作における操作感覚が向上し、安全性と作業効率の向上を図ることができます。

1.背景

自然災害現場での無人化施工は二次災害を防ぐために極めて有効な手段となっています。オペレーターは、建設機械(写真-1)のコクピット(運転室)内からの映像と建設機械を俯瞰する映像を頼りに遠隔操縦室(写真-2)で操作しますが、搭乗操作と比較して実際の建設機械の傾きや振動などを把握することは困難となっています。

バックホウなどの掘削機械では、掘削自体の動作や、掘削土砂を掴んだ状態での旋回など、重心の変化が生じる作業を行います。このため斜めの状態での掘削作業は機械の転倒を招くため、水平状態での作業が基本となります。また不整地運搬車などの運搬機械の走行においても日々変化する起伏の多い工事用道路を走行するため、予期せぬ左右の傾斜などによる転倒の危険性が高くなります。俯瞰映像による遠隔操作では建設機械の傾きの把握が困難なため、安全性を重視すると作業時間の遅延が生じます。

そこで遠隔操縦室内にいるオペレーターに、建設機械のコクピット内からの視界の他、建設機械の傾きや振動・音を提供することで、搭乗操作に近い感覚で遠隔操作可能な安全かつ効率の高い無人化施工VR技術(図-1)を開発しました。

開発したシステムは、当社の「ネットワーク対応型無人化施工システム」と東京工業高等専門学校の「シンクロアスリート」の内閣総理大臣賞を受賞した2つのシステムのコラボレーションとして発展させたシステムとなっています。


2.システム概要

無人化施工VR技術は、東京工業高等専門学校で開発したスポーツ観戦システム「シンクロアスリート(※1)」を応用し、建設機械側に360 度カメラと加速度センサーを設置し、コクピット内からの映像と音に加え、建設機械の動きを遠隔操縦室にリアルタイムに転送します。遠隔操縦室では映像をVRヘッドマウントディスプレイ等に表示し、音を再生すると共に操縦席が取り付けられたモーションベースで動きを再現します。

遠隔操作でありながら、実際に搭乗した状態に近い環境をオペレーターに提供することで、建設機械を傾斜地などで運用する場合でも安全かつ効率的な遠隔操作が可能になります。

※1:内閣総理大臣賞(第7回ものづくり日本大賞)受賞


図-1 無人化施工VR技術
図-1 無人化施工VR技術
写真-1 建設機械(不整地運搬車) 
写真-1 建設機械(不整地運搬車) 
写真-2 遠隔操作室内
写真-2 遠隔操作室内

3.システム構成

無人化施工VR技術は、遠隔操作盤および3 自由度モーションベースとヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)を使用した建設機械遠隔操作システムとなっています。システム構成は建設機械側と遠隔操作室側に分かれています。

建設機械側では、360 度カメラと加速度センサーをコクピット内に取り付け、搭乗操作目線での映像と音および建設機械の動き(加速度センサー出力)を記録し、配信します。

遠隔操作室側では、遠隔操作のジョイスティックで建設機械を操作し、遠隔操作された建設機械側で記録した360 度映像をディスプレイとHMD で再生すると同時に、建設機械の動きのデータによりモーションベースを駆動します。

これらの一連のシステムによりオペレーターは遠隔操作室内の操作座席(VRコクピット)でジョイスティックを用いて建設機械を操作し、遠隔操作された建設機械の映像と音および動きは遠隔操作座席でリアルタイムに再生されるため、オペレーターは搭乗操作と同じ感覚で遠隔操作を行う事が可能となります。

遠隔操作室側の操作信号と建設機械側の映像と動きのデータの無線転送には、当社が雲仙普賢岳(長崎県)などの災害復旧工事で確立した、複数の建設機械を操作室から遠隔操作で行う「ネットワーク対応型無人化施工システム」(※2)の要素技術が活かされています。

※2:内閣総理大臣賞(第7回ものづくり日本大賞)受賞

図-2 システム構成
図-2 システム構成

4.実証試験

開発した無人化施工VR技術は、熊谷組技術研究所(茨城県つくば市)内に整備した屋外実験ヤードにて検証実験を実施し、その有効性を確認しました。

写真-4 360 度カメラの取り付け
写真-4 360 度カメラの取り付け
写真-5 遠隔操作状況
写真-5 遠隔操作状況
写真-5 遠隔操作状況

5.今後の展開

今後、技術の改良を加え、遠隔操作における作業効率の更なる向上を目指し、実運用に向け、開発を進めていきます。
また災害時の迅速な応急復旧業務に備えるため、当社の協力会社との間で結成したチーム「KUMA-DECS」の無人化施工技術の訓練に無人化施工VR技術を取り入れ、無人化施工オペレーターの養成を行い、熟練オペレーターの技能を次世代へ継承していきます。

〔本リリースについてのお問い合わせ先〕
株式会社熊谷組 コーポレートコミュニケーション室 広報グループ 電話03-3235-8155

〔技術に関するお問合せ先〕
株式会社 熊谷組 土木事業本部 ICT推進室 電話 03-3235-8627