斜面対策工事に特化した「のり面CIM」の開発

2019年04月25日

株式会社熊谷組(取締役社長 櫻野 泰則)は、建設生産システムの業務効率化や高度化を目指した取り組みであるCIM(Construction Information Modeling / Management)について、これまでほとんど適用されていない斜面対策工事に特化したシステム「のり面CIM」を開発しました。

また、本システムを国土交通省九州地方整備局発注の阿蘇大橋地区斜面対策工事にて適用し、その有効性を確認しています。


1.開発の背景

現在、建設生産システムの業務効率化や高度化を目指してCIMの導入が活発化しています。斜面対策工事においてもトンネル工事や道路工事、橋梁工事等と同様にCIMを導入し、安全性を確保するために適切な施工管理を行い、維持管理段階へ引き継ぐことが求められています。しかしながら他工事と比較すると適用されている事例はほとんどありません。※
 
CIMの適用事例が少ない理由の1つとして、長大のり面の場合は対策工の実施数量が多く、原位置の地盤条件等に併せて対策工の仕様の変更が生じるなど、データの入力作業が膨大かつ煩雑になることが挙げられます。

そこで当社は、斜面対策工事に特化したシステム「のり面CIM」を開発することによりデータ入力作業の効率化を図り、斜面対策工における専用システムを用いたCIMを初めて実施しました。

※一般社団法人日本建設業連合会による「2018施工CIM事例集」では、トンネル11件、道路5件、橋梁7件に対して、斜面は0件)。また、CIM導入ガイドライン(案)においても斜面対策工は示されていません。

2.「のり面CIM」の概要 

このシステムは、斜面対策工事で実施するグラウンドアンカー工や鉄筋挿入工などに対し、その設置場所やアンカー諸元、当該箇所の地質情報、施工日、試験結果などの属性情報をアンカーに付与し、3次元空間に配置するものです(図1)。配置したアンカーには、施工状況の写真や試験結果のデータシート等もリンクさせて直接ファイルを閲覧できるようになっています(図2)。

また、アンカー本体だけでなく、反力をとる受圧板も3次元化することが可能で、のり枠型と板型の両方に対応しており、より実際に即した表示が可能となっています。(図3、図4)
本システムでは、ExcelⓇ等の表計算ソフトにて整理した施工実績のデータベースを読み取る仕様となっていることから、現場での入力作業の負担が少なくなっています。(図5)

なお、本システムは、3次元地質解析ソフトウェアを基本としていることから、調査ボーリングの3次元空間への配置や地質構造の3次元的な解析も可能となっています。

図1 のり面CIMのシステム全体画面
図1 のり面CIMのシステム全体画面
図2 アンカー属性表示画面
図2 アンカー属性表示画面
図3 受圧板設定画面
図3 受圧板設定画面
図4 3次元表示イメージ
図4 3次元表示イメージ
図5 アンカー管理用入力画面
図5 アンカー管理用入力画面

3.阿蘇大橋地区斜面対策工事での実施

阿蘇大橋地区斜面対策工事では、密着型安定ネット工(鉄筋挿入式アンカー工併用)を対象としました。

本工事では、崩落地であることからボーリング調査等の実施が困難で、地山状況(土岩境界)が正確には把握されていない状況でした。密着型安定ネット工は、土砂厚に応じて適切なアンカータイプを選定するため、施工中に探針機器および振動センサーを使用して土砂層の厚さをアンカー施工箇所の全点で確認調査を実施することとなりました。調査を施工中に実施するため、アンカー諸元を迅速かつ効率的に決定する仕組みが必要なため、本工事において「のり面CIM」を導入することとなりました。

本工事の「のり面CIM」では、確認した土砂層の厚さから土砂と岩の境界をソフト上で自動的に3次元モデル化し、アンカー諸元(種別、アンカー長)、アンカー配置、アンカー強度を3次元空間上で一元管理して、次施工にフィードバックを行いました(図6)。

図6 阿蘇大橋地区斜面対策工事において実施したのり面CIMの事例
図6 阿蘇大橋地区斜面対策工事において実施したのり面CIMの事例

4.のり面CIMの有効性 

崩壊直後の斜面のために地盤条件が定かでないという通常と異なる施工条件であったことから数値化はできないものの、施工中の調査データや施工実績を集約・3次元モデル化(可視化)し、一元管理した情報を次ブロックの施工へフィードバックすることにより、施工の効率化を図ることができました。

仮に「のり面CIM」を導入しなかった場合、抽象的な感覚でアンカー諸元を決定していたと考えられ、相当数の手戻りが発生していたと考えられます。また今回得られたデータは、今後の維持更新や同種工事に活用することが期待されます(図7)。
 
これまで密着型安定ネット工では、実施したアンカーの10%において引抜き試験を行っており、通常であれば対象のアンカーだけを施工時のデータとして維持・管理に引継がれます。阿蘇大橋地区斜面対策工事では「のり面CIM」を実施することによって引き抜き試験を行ったアンカー全てのデータを維持・管理に引継ぐことができました。よって施工の確実性を把握できる箇所が10倍となり、斜面対策工事における建設生産システムの高度化につながったと考えられます。


図7 阿蘇大橋地区斜面対策工事におけるのり面CIM実施概念図
図7 阿蘇大橋地区斜面対策工事におけるのり面CIM実施概念図

5.今後の展開 

今後は、全国の現場に展開し、様々な斜面対策工に適用する予定です。



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