トンネルグラウチング可視化システムの開発
2017年11月08日
株式会社熊谷組(取締役社長 樋口 靖)は、3次元地盤モデル作成システムを用いた「トンネルグラウチング可視化システム」を開発しましたのでお知らせします。
このシステムは、減水対策工の施工データとともに、切羽からの地質情報やボーリングデータ・プレグラウチングデータ等、トンネルの調査・施工段階のデータと併せて3次元データとして保存することが可能で、将来の維持管理に役立てることができます。
なお、本システムは、鹿児島県発注の北薩横断道路 北薩トンネル(仮称)で実施したトンネル湧水の減水対策工で得た施工データを基に開発しました。(※1)
(※1) ダムのグラウチング技術を適用した減水対策工によりトンネル坑内の大量湧水低減(2017年1月25日プレスリリース)
1.開発の背景
トンネル掘削に伴うトンネル湧水は、トンネル上部の地下水位の低下による地表への悪影響や、まれですが地山に含有するヒ素や重金属が流出し、環境への悪影響をもたらす恐れがあります。そのため、トンネル掘削後に、トンネル湧水の減量化を必要とする場合が今後も発生すると考えられます。
そこで当社では、北薩トンネルの施工実績から得られたデータを基に、この工事と同様な減水対策工をより効果的に施工することを目的に、3次元地盤モデル作成システム(システム名:MakeJiban、五大開発株式会社)を用いた「トンネルグラウチング可視化システム」を開発しました。
2.主な機能と特徴
今回開発したシステムは、以下のような特徴と機能を備えています。
① グラウチング区間のトンネル形状の作成
トンネル形状の作成には、3D-CAD設計図面のインポートによる方法の他に、トンネルの断面形状やトンネルの座標を入力することで、施工区間のトンネル形状を自動的に3次元で作成することがでます。これにより、設計図面の無い古いトンネルでも対応が可能です。
② グラウチング孔配置のパターン設定
北薩トンネルで得られた実績から、孔間隔や施工範囲を設定することで、効果的な孔配置を3次元で自動的に設定することができます。
③ ボーリンググラウチングデータの読み込み
専門工事業者が作成するボーリンググラウチングの元データファイルをそのまま使用するので、データの入力作業が不要になり、誤入力を防ぐことができます。
④ 3次元地盤モデル作成システム
3次元地盤モデル作成システムをベースに開発したシステムなので、切羽からの地質情報やボーリングデータ、およびプレグラウチングデータによってトンネル周辺の地質状況を3次元で把握することが可能です。
そのため、地質状況と併せてグラウチング状況を3次元的に把握することで、より的確な施工・管理を行うことが可能です。
⑤ 施工管理帳票の管理
注入日報等のボーリンググラウチングに関する帳票類やボーリング写真、ボーリング柱状図、ボアホールカメラによる孔壁観察写真や解析結果等をPDFで保存し、任意の帳票を3次元画面から指定して表示、出力することが可能です。 これによりトンネルの維持管理の段階でも、本システムを有効に活用することができます。
⑥ 管理グラフの作成
ルジオンマップはトンネル周辺の地質状況と合わせて3次元で表示することができます。また、2次元のルジオンマップや超過確率図、次数逓減図、散布図等のグラフ表示や出力も可能です。
⑦ 改良効果の判定資料
グラウチング評価の最小単位であるエレメントごとの改良程度を分析することが可能なので、湧水の増減状況などと合わせて、グラウチングによる改良効果を判定することができます。なお、プレグラウチングによる改良効果の判定手法については、今後の施工事例を参考に確立する予定です。
3.システム導入のメリット
当該システムを導入することによるメリットは以下のとおりです。
① グラウチング施工時におけるPDCAの迅速化
減水対策工は、トンネルの延長方向と上下左右360°の円周方向にグラウチングを実施するため、3次元的な注入状況の把握と解析が必要となります。従来は、グラウチングの施工・管理は、3次元の情報を2次元に簡略化して施工・管理しています。そのため、未改良箇所の追加孔の決定や改良状況の把握に際しては、2次元の図面やデータから立体的な水理地質構造を想像しながら検討する必要があるので、時間を要しているのが現状です。
本システムでは、施工データを直接立体的に把握することで、データの分析が容易になり、PDCAを迅速に行なうことが可能になります。
② 施工資料の一元管理・保管
注入日報やルジオンマップ、解析資料、トンネル施工データ等を一元管理し、維持管理資料として保管することができます。 例えば地震後の湧水の増加や、覆工の突然の不具合の原因判定など、将来の維持管理に必要な基礎データを3D-CADでの対応が可能な資料として保存することができます。また、調査・設計・施工段階に従事していない技術者でも、トンネル周辺の岩盤・グラウチング結果・水位や変位の状況等を容易に把握できるようになります。
4.今後の展望
切羽前方予測を目的に運用している「トンネル地山マルチ評価システム(※2)」を活用することでプレグラウチングの評価手法を確立するとともに、トンネルに限らずダムや地盤改良等、他工種への展開を図り、CIMやi-Constructionとの連動を進めていきます。
(※2):濵田好弘、長岡雄太:複数のトンネル前方探査手法における地山評価とその適用例、
日本応用地質学会 平成28年度研究発表会講演論文集
本システムにおける手順と画像事例
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