「サスペンションシールド工法」の開発

2017年10月04日

 株式会社 熊谷組(取締役社長 樋口 靖)は、東京地下鉄 株式会社(取締役社長 山村明義)、公益財団法人 鉄道総合技術研究所(理事長 熊谷則道)と共同で、シールドトンネルなどの地下構造物の変形や変位を抑制する技術「サスペンションシールド工法」を開発しました。
 本工法は、変形や変位の発生が想定される既設地下構造物を上部または側部の新設トンネルから牽引し、変形や変位の進行を抑制することで構造物の安全性を保持するもので、内部補強が困難な供用中のトンネルなどに有効な技術です(図-1)。

1.開発の背景

 軟弱地盤内に建設された既設トンネルにおいては、地盤の圧密により鉛直荷重が増加し、縦断方向に長期的な変形が発生する可能性があります。また軟弱地盤以外においても、後から施工された近接構造物の影響で変形や変位が発生する可能性があります。
 供用中のトンネルは、このような場合に内部から補強を行おうとすると、補強スペース確保のための事前処理を含み、供用自体に支障を及ぼすことが考えられます。そこで供用支障を減らすという観点から、対策方法の新たな切り口を探りました。
 そして供用中のトンネル内のスペースを侵す範囲を最小限に抑え、またトンネル内の作業量も少なくすることを優先して検討を行なった結果、「内部からの措置」という従来の概念を取り払い、「外部からの措置」を考えました(図-2)。

図-1 サスペンションシールド工法イメージ図
図-2 開発の背景

2.工法の概要

 「サスペンションシールド工法」は、シールドトンネルなどの地下構造物の変形や変位を抑制する技術です。変形や変位が進行する可能性のある既設の地下構造物に対して、上部または側部にシールドトンネルを新設し、既設の地下構造物を牽引することで変形や変位の進行を抑制します。例えれば吊橋を地中に構築するようなイメージです。
 なお、サスペンションシールド工法は、熊谷組と東京地下鉄、鉄道総合技術研究所の三者で共同特許を出願中の技術です。

 以下に、シールドトンネルを例とした施工手順を示します。
 ①変形や変位が発生する可能性のあるシールドトンネルの近傍に、吊り橋でいう主塔の役割を果たす立坑を設置します。
 ②吊り橋のケーブルの役割を果たす主部材構成の一部としての新設シールドトンネルを、立坑を利用して建設します。
 ③既設トンネルと新設トンネル双方に補強部材を設置します。
 ④新設シールドトンネルから削孔を行い、牽引部材を設置します。
 ⑤新設シールドトンネル内に親ケーブルを設置し、親ケーブルと補強部材を連結部材で接続、牽引用のジャッキを設置します。
 ⑥牽引力を調整することにより、既設構造物の変形や変位量を制御します。

図-3 手順①および②
図-4 手順③および④
図-5 手順⑤
図-6 手順⑥

3.サスペンションシールド工法のメリット

 ①既設トンネル内の対策のための占有スペースが、内部補強に比べて大幅に縮減できます。
 ②既設トンネル内の作業が減るため供用支障が少なくなり、利用者の不便を低減できます。
 ③内部補強ができないような場合にも対応が可能です。
 ④変形や変位の抑制量を制御することが可能です。
 このようにサスペンションシールド工法は、将来発生する可能性の変形や変位リスクへの予防保全措置として有効な工法です。

4.今後の展開

 サスペンションシールド工法は、さまざまな地中構造物への適用が可能です。
 今後はシールドトンネル以外の地下構造物への適用や(図-7)、近接施工の影響の予防など(図-8)についても応用の検討を行い、潜在する需要を開拓し、都市の下に輻輳する様々な構造物の変形や変位を予防する技術を確立したいと考えています。

図-7 シールドトンネル以外の構造物への応用
図-8 近接施工の影響の予防

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