油汚染土壌の浄化処理技術「ちゅらパイル工法」を開発

2015年01月22日

 株式会社熊谷組(代表取締役社長 樋口 靖)は、南洋土建株式会社(本社:沖縄県那覇市 代表取締役社長:比嘉森廣)、テクノス株式会社(本社:愛知県豊川市 代表取締役社長:中川正俊)と共同で、将来の沖縄米軍基地移転後の跡地開発を見据えた汚染土壌の浄化処理技術に対する沖縄県公募事業の実証実験を当初の予定通り3年で完了し、沖縄特有の土質や気候に対応した油汚染土壌の浄化処理技術「ちゅらパイル工法」を開発しました。

1.背景

 沖縄県では多数の米軍基地が存在し、欧米での事例でも明らかなように米軍基地跡地では油などによる土壌汚染が顕在化しています。
油に汚染された土壌の浄化対策としては、汚染土壌を掘削した後に、非汚染土壌と置換する方法や石灰と混合する方法、微生物の働きを利用したバイオレメディエーションなどがよく用いられています。
 油汚染はトリクロロエチレンなどの揮発性有機化合物に比べ、微生物による分解性(生分解性)が高く、バイオレメディエーションに適していると言われていますが、その一方で汚染土の浄化に要する時間が長く、土壌中で分解微生物がどのように働いているかの挙動や活性状態が不明であり、制御型の処理が難しいなどの問題点が指摘されています。
 そこで、本事業では油分解能力が高く、かつ安全性の高い分解菌を用い、沖縄特有の粒子の細かい粘性土(島尻マージ)や高温多雨という気候のもとでも、より確実で安全に油汚染土壌を浄化する技術の開発を行いました。

2.ちゅらパイル工法の概要と特徴

(1)ちゅらパイル工法の概要
 ちゅらパイル工法は、掘削した油汚染土に石油分解菌を投入、あるいは土着の石油分解菌を活性化させるために栄養塩や有機資材(堆肥)を投与して混ぜ練り合わせ、盛土状(パイル)に養生して沖縄の気候風土に適した管理手法で石油分解菌の働きを活発化させることにより土壌を浄化します。一般的な土壌を入れ換える方法に比べ、本浄化工法は低コストで浄化処理を行うことができます。

(2)ちゅらパイル工法の特徴
① 使用する石油分解菌は、人体や動植物、魚類、他の微生物に対する安全性を確認。
 「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」に基づく環境大臣確認を取得しています。
② 混練によって最適な状態に微生物や栄養剤を分散させ、パイル内に配管した有孔管から周辺の
  空気をパイル内に導入する「吸気方式」で酸素を土壌中へ供給します。
③ 粘土質土壌の混練時に発生する大塊は、「もみがら」を添加することで防止します。(特許出願)
④ パイル上部の覆蓋には酸素の供給を妨げない透気性防水シートを使用することにより、周辺環境
  への影響を抑えます。(特許出願)
⑤ 微生物の追加時期など、遺伝子解析技術により微生物を管理して浄化の促進を図ります。

3.実証実験の概要

 実証実験は、石油分解菌を投入するオーグメンテーション(パイルC)と、土着の石油分解に寄与する菌(以下、石油分解寄与菌という)を栄養塩添加により活性化させるスティミュレーション(パイルB)の2手法とし、比較のためにコントロール(パイルA)をあわせて実施しました。
 また、汚染土壌の条件は砂礫土壌と沖縄特有の粘土質土壌(島尻マージ)の2種類とし、油種はA重油、ジェット燃料、ベースオイル+ジェット燃料の3種類で実施。これらの条件を組み合わせて、全部で4つのSTEPの実験を行いました。
実験方法は図-1、全実験条件は表-1の実験結果まとめの表を参照。

図-1 実証実験方法

4.油実験結果

表-1 油浄化結果のまとめ

5.植生実験結果

■植物の生長到達高さ

図-3 浄化土壌を用いた植物生長実験結果(生長到達高さ、琉球アサガオ)
図-4 浄化土壌を用いた植物生長実験結果(生長到達高さ、ゴーヤ)

6.まとめ

(1)燃料系の油種を用いた実験(STEP1, STEP2)および生分解性が悪いと言われている潤滑油の
   基油であるベースオイルを用いた実験(STEP3, STEP4)において、「油汚染対策ガイドライン」
   で浄化目標と規定された「油膜・油臭の無いレベル」までの浄化を、2ヶ月から3か月
   (8週~12週)で達成することができました。
(2)浄化土壌を用いた植物の生育実験を行った結果、沖縄固有の植物である「琉球アサガオ」や
   「ゴーヤ」の生長に影響を与えないことが証明できました。また、成長した「ゴーヤ」中の
   油分濃度測定結果からも、浄化土壌中の油分の影響は確認されませんでした。
(3)浄化コストは汚染土壌約1万m3程度の浄化を想定して算出した結果、通常最も多く実施される
   「土壌入替え」(非汚染土壌との入替え)と比べ半分以下のコスト、また一般的に用いられ
   る「セメント工場搬出(セメントリサイクル)」と比べても、それ以下の浄化コストを実現
   しました。

7.今後の展開

 これまで沖縄県内で行われてきた汚染土壌の措置としては、汚染土壌の掘削除去が多く用いられており、土壌の搬出・運搬時の飛散や高コストが課題とされてきました。
「ちゅらパイル工法」は敷地内での施工が可能となるだけでなく、低コストで環境負荷の少ない状態で浄化することが可能となります。また、この浄化工法は米軍基地跡地だけでなく、製造工場敷地や都市部、住宅街など幅広い状況での施工が可能です。
 将来的には本事業で開発した「ちゅらパイル工法」を普及展開するため、工法研究協会を設立する計画であり、本協会に参加すれば沖縄県内のどの企業でも本工法を平等に実施できる権利を持つことができる予定です。
 工法協会設立に当たっては、これまでの実験が模擬汚染土壌での実証結果であるため、今後早期に県内で実汚染土壌の入手を図り、実汚染土壌による浄化確認を行ったうえで、会員の誘致に当たりたいと考えています。
 また工法協会設立は、県内企業への技術移転を積極的に図ることにより、県内企業の技術の向上とともに新規事業創出に寄与し、県内での新たな雇用創出にも結び付けることができると考えています。

以上

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 担当:小坂田 泰宏 (電話03-3235-8155)

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