熊谷組グループの成長戦略について2021年度版のコーポレートレポートに掲載した社長インタビューと社長とCSR/SDGsコンサルタント笹谷秀光氏とのサステナビリティ対談を掲載しています。

社長インタビュー

サステナビリティ対談

価値創造プロセス

2020年度のインタビュー

社長インタビュー

社会から求められる建設サービス業の担い手として、 社会課題と真摯に向き合い、挑戦を続けます。

前中期経営計画を振り返り、その成果についてお聞かせください。

当初想定していた目標値には届かなかったものの、成長への歩みは着実に力強さを増していると感じています。

 熊谷組グループは、2017年に中長期経営方針を定め、2018年度からその方針に基づいた中期経営計画を推進してきました。2020年度は、3か年にわたる中期経営計画の最終年度となりました。
 その3年間の成果を振り返ると、売上高は概ね順調に推移したものの、経常利益は当初想定していた利益率を実現することができず、残念ながら目標値に届きませんでした。
 この中期経営計画では、「建設工事請負事業の維持・拡大」「新たな事業の創出」「他社との戦略的連携」の3つを戦略の柱としてきました。「建設工事請負事業」については、旺盛な建設需要を背景に比較的順調に推移し、目標値には届かなかったものの、業界トップレベルの成長率を実現できました。「稼ぐ力」の源泉となる生産力も着実に高まりました。「新たな事業の創出」「他社との戦略的連携」については、住友林業との協業をはじめ多様なプロジェクトを進めてきました。しかし、海外事業など一部に遅れが見られ、将来に向けて種蒔きは行ったものの、その芽を十分に育てられませんでした。
 このように次期に向けて積み残された課題もありますが、私自身は、手応えを得ることができたと感じています。この中期経営計画は、新生熊谷組グループとしての「成長への挑戦」をテーマに掲げて取り組んできました。その成長の歩みは着実に力を増しています。新型コロナウイルスの感染拡大という想定外の環境にありながら多くの実りを得ることができたことは、ひとえに社員の前向きな取り組みの結果であると考えています。

前計画(2018~2020年度)の総括

今後、経営環境はどのように変化していくと考えていますか?

これから先、時代の動きはスピードを増して、より不確実になってくると思います。 その変化を見越して、リスクと機会に柔軟に対応できる経営が重要です。

 いま世界が直面している新型コロナウイルスの感染拡大は、これから先の不確実な時代を物語る出来事であると感じています。今後、熊谷組グループの経営においては、このような不確実な変化を見越して、そのリスクと機会に柔軟かつ速やかに対応する体制づくりが欠かせません。
 このコロナ禍とともに、社会の価値観や人々の行動様式も大きく変化しています。それは働き方についても同じです。当社グループでは、テレワークなどを進めていますが、土木や建築の現場など取り組みが難しい部門が多いという課題があります。今後は、さらにDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進を加速させ、ビジネスのあり方を変革していきます。
 SDGsに象徴される持続可能な社会の実現は、いまや世界の大きなうねりです。また、日本では、自然災害の激甚化やインフラ老朽化、人口減少による経済力低下などといった社会課題が顕在化しています。当社グループは、これまでも建設業として様々な社会課題に対応し、社会の発展に貢献してきました。今後もこのような姿勢を貫くとともに、これらの社会リスクを事業拡大のチャンスとして捉え、持続的な成長を目指して挑戦を続けていきます。
 
 

新しい中期経営計画は、どのような認識のもと策定したのでしょうか?

私たちが目指す社会を議論し、長期構想を掲げ2030年以降を見据えた経営方針を策定しました。

 今回新たに策定した中期経営計画では、2021年度からスタートする3か年の計画の前提として、「長期構想」を掲げています。これは2030年以降を見据えた経営方針となるもので、持続可能な社会の実現を目指すグローバルな共通目標であるSDGsに対して本業を通して貢献することを示しています。 先ほどもお話したように、これからの社会では不確実性がさらに高まっていくと考えられます。このような時代において10年後の社会がどのように変化しているかを正確に予測することは、難しいでしょう。しかし、自らの未来像を描き、そこに歩んでいくための道筋をみんなで議論することは、当社グループの未来にとって非常に大事なことです。
 この中期経営計画の策定では、次代を担う若手・中堅社員を中心としたワーキンググループで検討を重ね、経営会議で徹底した議論を行いました。
 このような議論を通じて私たちが再認識したのは、熊谷組が創業時から受け継ぐ「誠実さ」や「挑戦心」といった“志”の大切さです。今回の長期構想では、この想いを盛り込み、「熊谷組グループの担う役割」として「建設技術の使い手として難所難物に挑み、社会基盤づくりの担い手としてハードとソフトの両面で多様な価値を提供する」という言葉を掲げています。
 
 

社会課題認識と目指す社会

今回の中期経営計画では、どのような事業戦略に取り組んでいくのでしょうか?

コアとなる建設請負事業をさらに深化させるとともに、周辺領域での成長を加速させ、新たな事業の開拓に挑んでいきます。

 今回の中期経営計画では、長期構想のもと、2021年度から3か年による戦略を進めていきます。その事業戦略の柱として次の3つがあげられます。
 まず1つ目が「建設請負事業の深化」です。建設請負事業は、当社グループの成長の基盤となるコア事業です。「建設請負事業の深化」において重点的に取り組む分野として、国内土木事業では、需要の拡大が期待される「インフラ大更新」があげられます。また、国内建築事業では、住友林業とともに進める中大規模木造建築の展開を本格化します。2021年3月には、両社協業による中大規模木造建築ブランド「with TREE」を立ち上げており、この事業を軌道に乗せたいと考えています。海外建設事業では、受注が拡大している台湾をはじめ、アジア地域での展開を強化します。
 戦略の2つ目は「建設周辺事業の進化」です。「再生可能エネルギー」「不動産開発」「インフラ運営」「技術商品販売」の4事業をこの領域に位置づけ、成長を加速させて確固とした収益源を創出します。再生可能エネルギー事業については、木質バイオマス発電などすでに取り組んでいる事業を推進する一方で、注目の集まる洋上風力発電などについても検討を進めています。不動産開発事業では、インドネシア・ジャカルタでのプロジェクトに続く、海外案件の開拓にも力を注ぎます。インフラ運営事業や技術商品販売事業を含め、これらの領域では、住友林業との協業をはじめ他社との連携を積極的に図り、事業のスピードを加速させていきます。
 戦略の3つ目が「新たな事業領域の開拓」です。これも、当社グループが今後更なる成長を遂げていくためには非常に重要となる戦略です。新領域の開拓や新事業の創出に挑むとともに、社員が自らのアンテナを高く張り、斬新なアイデアを前向きに提案できるような組織や制度づくりも進めていきたいと考えています。
 
 

ESG視点による非財務目標を新たに掲げた理由は何でしょうか?

ESGの推進は、熊谷組グループの経営にとって根幹ともいえるものです。 その経営方針を明確化するために新たな目標を掲げました。

 熊谷組グループでは、2017年に定めた中長期経営方針において「ESGの視点を取り入れた経営の強化」を掲げ、2019年に「ESG取組方針」を策定しています。今回新たにスタートした中期経営計画においても、ESG視点による経営は根幹ともいえるものです。その方向性を明確にするため、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の各分野において非財務目標を明確にしました。
 さらに今年度からは、SDGsと業務との関連付けを行い、リスクと機会への対応を進めます。経営を支える基盤の強化も欠かせません。今回の中期経営計画では、デジタル化の推進を重点施策のひとつにあげ、2021年5月、全社的な展開に向けてDX推進部を新設しました。DX人財の採用や他社との連携なども視野に入れ、働き方改革や業務プロセスの効率化・自動化を進めていきます。
 技術開発においても、社会のニーズに速やかに対応し、技術開発体制を充実させるなどの改革を進めています。脱炭素や循環型といった持続可能な社会の形成に貢献し、また、その事業機会を的確につかみ、収益の拡大につながる研究開発体制を実現していきます。
 人財開発については、女性活躍をはじめダイバーシティの推進に継続して取り組んでいます。2020年度は経済産業省「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出されるなど社外からも評価されています。また、環境問題や社会貢献活動などについても、日々の仕事の中で自主的に取り組む風土が育ちつつあります。
 ESG・SDGs経営の基盤としてきわめて重要となるテーマが、リスクマネジメントをはじめとするガバナンスの充実です。主要な事業案件については、取締役会で社外取締役も交えて議論を重ね、徹底したリスクの洗い出しを行っています。さらに、財務リスクの管理体制を強化するために、2021年4月、これまで財務部にあった審査グループを分離・拡充し、審査部を新設しました。また、課題のひとつでもあった熊谷組グループとしてのガバナンス体制について改革を進めています。コンプライアンス研修をグループ会社社員にも広げて実施し、各社の経営層との緻密な連携を図っています。
 ESG・SDGsの取り組みについては、海外の機関投資家とのミーティングなどでも必ず話題にのぼるなど、その重要性が年々高まっていることを肌で感じています。
企業価値の毀損を防ぎ、持続的に向上させていくためにも、ESG・SDGs経営の一層の推進に取り組んでいきます。
 
 

基盤戦略:経営基盤の強化

資本政策など、株主・投資家へのメッセージをお聞かせください。

ROEおよび配当性向については安定的な確保を図っています。資本コストを重視しながら、引き続き積極的な成長投資を行っていきます。

 今回の中期経営計画では、3年間で400億円の成長投資を計画しており、3年後の2023年度に連結経常利益330億円を達成することを目標としています。成長領域と位置づける建設周辺事業を中心に案件を慎重に検討しつつ、適切な配分を考慮して積極的な投資を行っていきます。
 これら成長投資においては、資本コストを重視しています。数値目標のひとつとして掲げるROEについては、前回の中期経営計画と同様の12%を目標としています。
2020年度においてもROEは目標に近い水準にまで達しており、想定する資本コストを大きく上回る資本効率を実現しています。また、配当性向についても、これまで同様に30%を目処に安定的な配当に努めていきます。
 当社のESG取組方針では、「ステークホルダーとの関係強化」を重要課題のひとつに掲げています。コロナ禍という環境の制約はありますが、今後も機関投資家ミーティングを国内外で積極的に実施していきます。さらに、多様な株主の皆様との対話の機会を増やしていきたいと考えています。今後も成長投資、株主還元のバランスの最適化に努め、ステークホルダーの皆様のご意見に耳を傾け、着実な成長を目指していきます。
 
 

熊谷組グループが持続的な成長を果たしていくために、何が大切であるとお考えでしょうか?

未来への「挑戦心」は、多様な人財が活躍する環境で育まれます。社員と一丸となって次なる成長へと挑んでいきます。

 私が熊谷組の社長に就いて3年が経ちました。創業120周年という節目となる年に経営のバトンを受け継ぎ、振り返ると、あっという間の3年間だったように思います。
 私はこれまで、フットワークよく行動することを仕事の基本にしてきました。それは社長になってからも変わりはありません。コロナ禍という想定外の事態もありましたが、それでも可能な限り現場や支店に足を運び、社員と直接会話するように心がけてきました。お客様をはじめステークホルダーの皆様との対話も同様に積極的に取り組んできました。
 このように社員と接しているうち、最近になって感じるようになってきたことがあります。それは、ダイバーシティ推進の取り組みが実を結び、多彩で多様な人財が活躍できる風土が根づきつつあるということです。
 今回新たに策定した中期経営計画に掲げた「持続的成長への弛まぬ挑戦」を実現させるためには多様な社員が存分に能力を発揮し、互いに認め合いながら自由に議論を交わして、そこから新しい発想を育んでいくような組織づくりが重要です。いま社内で起こりつつある改革を、私自身が先頭に立ってさらに前進させていきたいと思っています。
 「挑戦心」は、創業の時から受け継ぐ熊谷組にとって大切な精神です。新型コロナウイルス感染症拡大という事態を乗り越えて、その先の社会に貢献していくために、グループ一丸となって新中期経営計画に取り組み、新たな成長を目指して挑戦を続けていきます。

 
 

【サステナビリティ対談】経営にSDGs の視点を融合させサステナブルな社会の実現に貢献します

千葉商科大学教授でCSR/SDGsコンサルタントの笹谷秀光氏をお招きし、SDGsの視点から熊谷組の事業や経営について、社長の櫻野泰則が話を聞きました。笹谷氏には、熊谷組が2020年10月、グループ全社員を対象とした「サステナビリティ講演会」の講師を務めていただきました。

サステナブルな視点から目指すべき社会を考える

櫻野 笹谷さんには、昨年10月にグループ全社員を対象として行った「サステナビリティ講演会」で講師をしていただき、たいへん貴重なお話をうかがいました。早いものであれから半年が経つのですね。

笹谷 わずか半年ですが、この間に社会は大きく変化したように感じます。新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちが思っている以上に世界に大変革をもたらしているのではないでしょうか。最近、よく耳にする「ニューノーマル」という言葉のとおり、考え方や働き方のパラダイムが根本から変わろうとしています。

櫻野 その変化する時代に向けて、熊谷組グループでは新しい中期経営計画をスタートさせました。今回の計画にあわせて「長期構想」を策定しています。これは2030年以降の目指すべき社会と、その社会に貢献していくための道筋を描いたものです。

熊谷組グループでは2016年に、「高める、つくる、そして、支える。」というグループビジョンを策定しています。このビジョンはとてもわかりやすいメッセージですが、「支える」といっても、どんな社会をどのようにして支えるのか曖昧ところがありました。そこで自分たちなりに2030年以降の社会を思い描いてみることにしました。

笹谷 改めて熊谷組の原点に立ち戻って、自分たちが目指すべき社会をみんなで考えてみようということですね。とても素晴らしいことだと思います。変革が進む今、これまでのように足元ばかり見ていては危ない状況になってしまいます。先を見通せない時代だからこそ、目線を上げなければなりません。

櫻野 今回の長期構想では、中堅・若手中心のプロジェクトチームをつくり議論を重ねました。現状から考えるのではなくて、将来のあるべき姿を描き、そこに向かって自分たちがやるべきことを洗い出していく、バックキャスティングの手法を取り入れています。当然、そのためには、SDGsをはじめサステナブルな視点が欠かせません。

笹谷 その進め方も的確ですね。将来の社会課題は? その解決に向けて熊谷組が築き上げてきたレガシーをどう活かすべきなのか? 変革が必要なのではないか? といったように、機会とリスクの両面から洗い出しを行うことはきわめて大事なことです。

 

熊谷組のSDGsに対するポテンシャルは高い

櫻野 そうすることで、熊谷組としての「大義」というか、企業として社会を支えていくことの意味を改めて皆で考えることができます。「自分たちは何のために土木や建築の現場で汗をかいているのだろう」といったことが、とてもわかりやすくなってくるのではないかと思うのです。

笹谷 最近、世界的な企業の多くが目指すべき目標、すなわちパーパスをより大きなものへと描き直しています。櫻野さんがおっしゃる「大義」と同じでしょうね。それを社員や社外の人たちにわかりやすく伝えていくことは、企業にとって非常に大切なことです。

また、先ほど「バックキャスティング」という言葉が出ましたが、それは2030年に向けて17の目標を掲げたSDGsとまさに同じ進め方なのです。

櫻野 正直に言うと、私たちはそこまでSDGsのことを深読みできてはいなかったと思います。ただ「未来を描く」という経験を通じて、SDGsについても理解を深めることができたのは確かです。これを社員に浸透させていくことが次の重要なステップだと考えています。

笹谷 おそらく熊谷組の場合、創業の時からずっと社会課題の解決つながる事業に取り組んできたのでしょうね。これまでの数多くのプロジェクトを、SDGsが掲げる17の目標に照らしあわせてみると、自然に多くの目標に当てはまるはずです。

このように企業の歴史を一度SDGsの視点で見直すことで、世界標準で自分たちの物語を整理することができます。

日本の場合、長寿企業が世界一多く、SDGsの考え方に

つながるような経営に取り組む企業が数多くあります。お話を聞いていても、熊谷組はSDGsに対して非常にポテンシャルの高い企業体だと感じます。

熊谷組の事業をSDGsの17目標に当てはめてみる

櫻野 今回の中期経営計画で注力する分野にはESG ・SDGsと関係が深いものが多くあります。土木事業における社会インフラの更新もそのひとつです。現在、高度成長期につくられたさまざまな社会インフラが更新期を迎え、社会課題となっています。当社グループでは、独自の技術力を活かしてこの分野の事業を拡大し、社会課題の解決に貢献していきます。

建築事業では、住友林業とともに進める中大規模木造建築が大きな柱になります。木材は鉄筋や鉄骨で建設するよりもCO2排出量を削減でき、木材が成長した時に吸収した炭素を長期にわたり固定できます。脱炭素や循環型社会への貢献とともに市場の拡大が見込まれる分野です。また、海外事業では、アジアの国々での都市インフラ整備に力を注いでいきます。

笹谷 いま櫻野さんがあげた3つの分野は、熊谷組の中核となる事業、つまり「本丸中の本丸」での取り組みですよね。そのような事業の推進がSDGsに直接つながるというのはとても恵まれていると思います。

たとえば、技術力で社会基盤をつくろうというインフラ更新は、[9]のど真ん中ともいえるテーマ。また、木造建築は最大の目標のひとつである[13]の気候変動対策に加えて、[9]と[15]に対応します。住友林業とのパートナーシップで進めているので[17]にも該当しますね。アジア諸国での都市インフラ整備も、「住み続けられるまちづくり」という[11]に直接関わる事業です。

櫻野 確かにそのとおりですね。社会課題との関わりをわかりやすく客観的に理解できます。

笹谷 もうひとつ、SDGsの特徴をあげると、「仲間づくり」がしやすくなるのです。今後アジア地域での事業に注力するとのことですが、これらの国々ではSDGsの認知度が日本に比べてはるかに高い。事業を進めるには、政府やNGOなど現地の人たちとの調整が必要になります。そんなとき、SDGsへの関心が高い「仲間」として連携がスムーズになるのです。その意味でも、今後海外での事業を拡大していこうという日本企業にとって、SDGsは欠かせない共通言語になるわけです。

笹谷 カーボンニュートラルへの対応も必須です。熊谷組ではどうですか?

櫻野 2050年迄に温室効果ガス排出量ゼロとする目標を設定し、RE100・JCLPへの加盟、SBT認定の取得を完了しています。脱炭素社会の実現への強い意思を内外に示しています。

中期経営計画の注力分野と関係の深いSDGs目標

ESG・SDGsマトリクスの整理によるSDGs経営

笹谷 日本では、古くから「三方良し」(自分良し、相手良し、世間良し)という経営理念があり、これまで多く企業があまり意識せずに自然に実践してきました。これは、現在のSDGsにもつながるとても大事な考え方なのです。一方で、「陰徳善事」(いんとくぜんじ)といって、せっかくの善行を人に知らせない美学もある。これではいまの時代にそぐわないので、私は独自に「発信型三方良し」の「SDGs化」という経営戦略を提唱しています。

櫻野 熊谷組の創業の精神とSDGsやESGは、根底でつながるものがあり、私たちが120年余りの歴史の中でずっと実践してきたものです。笹谷さんがおっしゃるとおり、そのことを社会に伝えることを苦手にしてきたところがありました。

そこで、このたび事業戦略とSDGs、ESGのつながりを明示しました。これは笹谷さんに監修をお願いして、マトリックスとしてまとめました。

笹谷 SDGsの17目標を横軸に、ESGを縦軸にして整理したものですね。私はこれを「笹谷マトリクス」と呼んでいます。これは、ESG投資家にも幅広い関係者にも熊谷組のSDGs経営を体系的に「見える化」する効果があります。社員たちも自らが世界共通言語でチャレンジしているテーマを実感でき、SDGs経営が進みます。

よく勘違いされることがありますが、ESGとSDGsは別物ではなく、表裏一体ともいえる関係にあります。これらと事業の関わりをわかりやすく整理すれば、社員は同じ意識で仕事に取り組めます。また、投資家をはじめ社外のステークホルダーに対しても訴求力を高めることができるのです。

櫻野 最近、海外の機関投資家とのミーティングなどでもESG経営に関する話題が増えています。今回の中期経営計画では、ESGの各分野に非財務目標を掲げました。整理してみて改めて気づくのですが、ESGやSDGsにつながる取り組みは当社のさまざまな事業に広がっています。今後はさらに積極的に、発信していきたいです。

 
 

SDGsを「自分ごと化」するということ

櫻野 熊谷組が長期構想で描いた社会の実現に貢献していくためには、これまで以上に多様な価値を生み出していかなければなりません。そのためにはハードばかりでなくソフト面の知識や技術も求められてきます。さらに多様な分野の企業との連携がますます重要になると思っています。

笹谷 建設請負業は、連携のかたまりのようなビジネスですよね。そのプロセス、社員をはじめ担い手などさまざまな連携のもとに動いています。

先にも話しましたが、SDGsにはこれらの連携をスムーズにする力があります。たとえるなら磁石のようなもので、SDGsに関心のある企業や人たちがその磁場に引き寄せられて集まってきます。そこからオープンなイノベーションが起こるのです。熊谷組には、ぜひイノベーションのコアを担ってほしいですね。

それから、いまハードウェアとソフトウェアが必要とおっしゃいましたが、もうひとつ「ハートウェア」を加えてほしい。そうすれば、SDGsの推進がさらにスムーズになると思います。

櫻野 なるほど、「ハートウェア」ですか。その点では、熊谷組でも社員の意識に変化が見られるようになってきたように感じます。当社では「熊谷組スマイルプロジェクト」という独自の社会貢献活動プラットフォームを運用しています。最近、社員たちがこの仕組みを利用して自発的に社会貢献活動に取り組むようになりました。その内容も環境ばかりでなく、教育や地域など多様な分野に広がり、社内でも盛り上がっています。

笹谷 いいお話ですね。社会課題対応に取り組むことによって地域をはじめいろいろな人たちとの連携が広がり、社員自身の学びにもつながります。プラットフォームをつくることも大事です。なにげなくバラバラに活動を行っているようではPDCAを回すことができません。ひとつ提案するならば、もう少し仕組みを進めて、各自の活動がSDGsのどの目標に当てはまるのかわかるようにするとよいと思います。そうすれば、SDGsを「自分ごと化」することができます。

SDGsはとてもよくできたスキームで、5つの特徴があります。まず1つは「普遍性」。活動の横展開のように、すべての人で取り組もうということです。次は誰ひとり取り残さないという「包摂性」、さらにすべての人が役割を担う「参画性」、社会・経済・環境の三位一体を目指す「統合性」、そして5つ目が活動をはっきりと伝える「透明性」です。ぜひこの5つを意識して取り組んでほしいと思います。

櫻野 とても貴重なお話をありがとうございます。私自身はもちろん、社員にとってもたくさんの気づきにつながる話だったと思います。熊谷組では、SDGsを推進していきたいと考えています。

笹谷 社会の変革とともに企業のSDGsの取り組みも急加速して裾野がどんどん広がっています。そのなかでも熊谷組のポテンシャルはとても高く、光る存在になりうると感じました。ぜひもう一段も二段も飛躍させてSDGsへの取り組みに力を注いでほしいと思います。

 

 

価値創造プロセス

熊谷組グループは社会課題の解決に貢献し、ステークホルダーの皆様のお役に立てるようグループビジョンに基づき、事業活動を展開しています。
熊谷組グループらしさを発揮して、全員参加でベクトルを合わせ、未来を拓く新たな価値創造に挑戦しています。
 

ESG取組方針

1.当社は、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の視点から解決すべき重要課題(マテリアリティ)を特定し、持続可能な事業活動を追求していく。
2.当社は、グループが保有する技術・経験・ノウハウを活用して新たな価値を創造し、SDGsに代表される社会課題の解決に貢献する事業活動を展開していく。
3.当社は、事業活動を通じてステークホルダーとのコミュニケーションによる信頼関係の構築に努め、企業価値の向上を目指していく。

 

2020年度のインタビュー