高い技術力で社会課題を解決
熊谷組の「現場力」

持ち前の高い技術力で、長年にわたり社会課題の解決に取り組んできた熊谷組。とりわけ台風や豪雨災害、地震などの大規模災害の現場では、無人化施工技術を活用して、迅速な災害復旧にあたってきた。災害分野以外でも、労働人口の減少に伴う人手不足をにらみ省人化や施工の迅速化に役立つ新工法を開発。木造・木質ビルではカーボンニュートラルの達成を目指して関連企業と新たな部材や環境に配慮した構法の開発に取り組むなど技術開発に総力をあげる。社会インフラの守り手として、技術力の高さを社会貢献にどのように生かしているのか。長年、無人化施工技術による災害復旧に携わっている土木事業本部 土木DX推進部の北原成郎氏へのインタビューとコラムを交え、同社の取り組みを紹介する。

土木事業本部 土木DX推進部 北原 成郎

熊谷組は1898年の創業以来、多くの災害復旧の現場に向き合ってきました。日本は地震や台風など自然災害が多いことから災害復旧の分野において、独自の発展を遂げてきました。当社が得意とする無人化施工システムもそのような環境の中から、発展した技術だといえます。カメラ映像とICTにより、建設機械を離れた場所からオペレーターが遠隔操作するこの技術は、1994年の雲仙普賢岳で起きた土石流の撤去工事において、初めて本格的な試験運用が行われ、以来四半世紀の間、様々な現場でノウハウを積み上げ発展してきました。

大橋地区の崩落直後(左)と復旧後に道路が開通した様子(右)
下流域に遠隔操作室を設置し、施工を実施

無人化施工システムが活躍した最近の事例としては、2016年の熊本地震で発生した阿蘇大橋地区の斜面崩壊の復旧工事が挙げられます。同地区では道路の寸断を含む大規模な被害が生じたため、住民生活や物流への影響も大きく、迅速な復旧作業が望まれていました。土砂災害の現場では、作業場所へのアクセスが困難で、多量の不安定な土砂によって作業時に二次被害が発生する恐れもあり、遠隔操作による人員の安全確保が重要です。施工にあたっては、ドローンを活用して地形データを取得、3次元モデルによる計画設計を経て、無人化施工の精度を高めました。独自開発の「ネットワーク対応型無人化施工システム」では、伝送量の大きい無線LAN、光ファイバー網などを組み合わせて遠距離でも大容量データを伝送できるシステムを構築。現場から1キロメートル下流の安全な場所に設置した遠隔操作室から復旧作業を行いました。この取り組みは、土木分野におけるICT(情報通信技術)の全面的な活用(i-Construction)における好例として、土木学会技術賞や国土技術開発賞、ACECCプロジェクト賞などを受賞し、国内外から高い評価を受けました。

社会基盤と街を創り続けてきた私たちにとって、災害復旧やインフラのメンテナンス、環境保全やサステナビリティーに配慮した施工を行うことは、重要な使命です。時代の変化に応じて最新技術を取り入れ、社会課題解決に結びつけています。

現場活用で進化を見せる
無人化施工技術の未来

無線LANなどの高速通信技術によって無人化施工が急速な発展を遂げてきたように、今後の展望としてはAI(人工知能)やVR(仮想現実)などの新技術の導入が加速するとみています。AI制御を活用した事例としては、建設機械の自動走行でのオペレーターの負担軽減と安全性向上が挙げられます。先述の熊本地震では、事前に収集したデータと指示をもとにAIが車両の自動走行を制御し、工事車両間の接触事故防止や1人のオペレーターでも複数車両を同時操作ができる環境を実現しました。また、東京工業高等専門学校と共同開発したVRコックピットでは遠隔操作中のオペレーターが建設機械の操縦室内から視界、音、運転席の傾きなどをリアルに体感することができ、実際の登場操作に近い感覚で遠隔操作することが可能です。

搭乗操作に近い感覚で遠隔操作することが可能な無人化施工VR技術

私たちは機械やシステムを単なる道具とは捉えてはいません。いかにそれらをうまく使って自分たちのもつアイデアを形にし、表現できるかを常に考えています。土木工事の領域には、上記のAI・VRなどの先端技術の活用を含め、創意工夫の余地がまだまだ多く残されているからです。技術の進展により、土木が持つ泥臭いイメージにはとどまらない、20~30代の若い人々が自由な発想を生かして働ける環境が整ってきたと実感しています。私たちは国土の開発・復旧という使命を果たしながらも、人と機械のつながりによって、熊谷組らしい未来型の土木工事・建設を実現するべく、研究開発を進めています。

Column①コッター床版工法

熊谷組はインフラの保守・復旧をよりスピーディーに行うための技術開発に力を入れています。熊谷組をはじめとする4社が共同で開発した「コッター床版工法」は、橋梁の床版を取り替えるときに使う技術です。コッター式継手と呼ばれるくさび型の機械式接手を用いて、プレキャストの床版を接合する方式で、床版と床版を現場打ちコンクリートでつなぎ合わせる従来の工法に比べ、より速い施工が可能です。現場での鉄筋・型枠組み立て作業が不要なことから、作業人員の削減、品質やメンテナンス性の向上などの利点もあります。NEXCO東日本の東北自動車道十和田管内高速道路リニューアル工事をはじめ、全国の高速道路床版取替工事で採用されています。

日本の国土を守り
次世代に引き継ぐ

災害対策においては、即応体制の構築が重要なため、大規模災害の応急復旧をより円滑に行うための枠組みづくりを積極的に進めています。熊谷組は2018年に、土木系専門工事会社17社と災害時の応急復旧対応チーム「KUMA-DECS(クマデックス)」を結成しました。災害発生直後は、建設重機や無人化施工オペレーターを迅速に配置し、応急復旧工事への対応体制を立ち上げる必要があります。関連企業があらかじめ協力体制を構築しておくことで、国や自治体などからの出動要請を受けた際にも、資材の手配や会社間の調整などをスムーズに行うことが可能です。また、平時には、無人化施工オペレーターの養成を行っており、熟練オペレーターの技能を次世代へ継承し、技能保有者の増員にもつなげます。

中長期的に災害を未然に防ぐというという観点からは、下記コラムで紹介する中大規模建築の木造化・木質化建築によるカーボンニュートラルの実現も大切で、地球温暖化による気候変動への対応に注力していきます。災害から日本の国土を守り、未来世代にしっかりと引き継ぐために、熊谷組はさらなる技術開発と人材育成に全力を注いでいきます。

Column②木造・木質ビル

2021年に竣工した熊谷組本店

気候変動による大規模災害や健康への影響が社会課題となっているいま、注目されているのが中大規模建築の木造化・木質化です。2021年には、中大規模木造建築ブランド「with TREE」を住友林業と立ち上げ、創業の地、福井で行った熊谷組福井本店のリニューアル工事では、都市型コンパクトオフィスをテーマに「耐火木造」および「ZEB」(※)の2つの特徴を兼ね備えたオフィスを建築しました。独自開発した木質耐火部材「断熱耐火λ-WOOD®(ラムダウッド)」を採用した鉄骨造と木造のハイブリッド構造で、北陸の積雪荷重にも耐えられる強度を持ち、外皮性能の「高断熱化」や湿度と温度を分けて空調負荷を処理する「潜顕分離空調」を導入するなどの各種工法でNearlyZEBを取得しました。熊谷組では、木造の利活用によるカーボンニュートラルの実現に向けて今後も中大規模建築の木造化・木質化を推進します。

※Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略。快適な室内環境を実現しながら、年間の一次エネルギーの消費量をゼロに近づける建築物。

(企画・制作:日本経済新聞社 Nブランドスタジオ)