社会とともに成長を遂げていくため  ESGに対する全社のベクトルをひとつに

熊谷組では、客観的な視点を経営に取り入れ、コーポレートガバナンスの充実を図っていくために社外取締役を選任しています。ESG経営の推進について、社外取締役のお二人に率直な意見を交わしていただきました。

(左)湯本 壬喜枝 社外取締役 (右)広西 光一 社外取締役 

ESGがもたらす社会と企業の新しい関係

湯本 最近、ESGやSDGsといった言葉を毎日のように耳にしますね。広西さんはこのような時代の変化をどのように感じていらっしゃいますか?

広西 おっしゃるとおり、企業に求められる社会的な価値が大きく変化しているように感じます。ただ私は思うのですが、事業を通じて社会に貢献していこうという姿勢は、日本の企業にとってずっと昔から根づいているものではないでしょうか。わが国でよく語られる経営哲学に「三方よし」というものがありますね。売り手よし、買い手よし、そして、世間よし。つまり、社会のためでなければならないという発想です。

私が以前に経営に携わっていた企業グループでは、すでに十数年前からこうした社会に貢献していくための理念や行動の方針を小さなカードにまとめて、全社員が携帯していつでも確認できるようにしていました。この例のように、日本の企業の多くは社会への貢献という意識を持ち実践してきたはずです。ただ、これまではその姿勢を社会にはっきりと伝えずに、また、全社員で十分に共有できていなかったように思います。ESGやSDGsが注目されるようになった最近の変化は、このような姿勢を見直し、その重要さを再認識するための絶好の機会だと感じています。

ダイバーシティが専門分野である湯本さんは、また違う感じ方をしているのではないでしょうか?

湯本 そうですね。私は最近、改めてSDGsについて徹底して勉強してみたのです。そこで行き着いたのがMDGs(ミレニアム開発目標)。このMDGsは、貧困や飢餓の撲滅などを目的に2000年に国連で採択されたもので、大きな成功を収めた取り組みといわれています。

ダイバーシティの分野で私が常に注目しているデータに、男女間格差を示すジェンダーギャップ指数があります。最近、この指数でアフリカの国々が世界でも上位にランクされるようになってきました。実はこれもMDGsの成果なのですね。

SDGsは、このMDGsをさらに発展させたものです。持続可能な社会実現のために、世界中の国や企業が同じ目標に向かって一緒に進んでいこうという素晴らしい取り組みだと感じています。

「いつか世の中のお為になるような仕事」

湯本 今、広西さんは社会貢献といった文化は日本の企業にずっと根づいているものだとおっしゃいましたが、まさに熊谷組がそうですよね。創業者である熊谷三太郎は「いつか世の中のお為になるような仕事」という言葉を伝えています。その想いをずっと大切にしてきたからこそ、苦難の時代を乗り越え、120周年を迎えた今、再び成長することができているのだと思います。

広西 それは私も同感ですね。土木や建築の現場を訪れてみても、責任者である所長を先頭に凄い団結力で環境保全や地域社会への貢献といった課題に取り組んでいます。これは熊谷組がずっと受け継いできた伝統の力だと思います。

アピール力とスピードという課題

湯本 広西さんが感じていらっしゃる熊谷組におけるESGの取り組みの課題はどんなものですか?

広西 現場と、経営層や本社の管理部門との間に意識のギャップがあるのではないでしょうか。これが、私が感じる熊谷組のESGの取組みを推進するにあたっての課題ですね。CSRや働き方改革などそれぞれに取り組む専門の組織はあっても、それら全体を取りまとめる方針や仕組みが整っていないために全社に上手く浸透できていない。その意味では、2019年4月に「ESG取組方針」を策定して方向性を明確化したことは非常に重要だと感じています。

湯本 ESG経営において私が感じている課題は、社会に伝えるアピール量ですね。環境面(E)ではエコファーストに2001年に業界初で評価されてから地道に取り組み続けて成果を挙げ続けていること、社会(S)では生産性向上を含む働き方改革です。私が社外取締役に就任した当初は公表しがたい数字でしたが、この1年で大きな成果をあげているので、是非公表して欲しいと思います。

広西 アピール量が足りないということでは、研究開発の成果なども同じですね。先日、研究所に見学に行ってきましたが、無人化施工技術など素晴らしい技術力を持っている。すでに震災の復旧などでも活躍しています。このように社会的に意義のある技術が数多くあるにも関わらず、それを社会にアピールすることが得意ではないようです。

湯本 取締役会でも、無人化や遠隔操作といった技術を駆使して緊急を要する災害に対応するユニットハウスが話題になりましたね。このような社会貢献にもつながる技術についてはもっと積極的に発信していくべきでしょう。この技術は7割近くを森林が占める特殊な先進国日本での森林保全での活躍にも期待できるところです。さらに木造建築事業もSDGSの環境への取り組みとしても期待が高まっています。最近、私は森林が92%を占める四国の山奥の環境モデル都市の梼原へ行きました。自分の体験としての木造建造物を観察したくて、梼原町総合庁舎、昨年できた雲の上図書館などを訪ね、木造建築の温かさと癒しの魅力に引き込まれました。森の中で本を読んでいるようでした。それからもうひとつ、アピール力に加えて、取り組みのスピードもESG経営におけるこれからの課題。目標を掲げて期間を区切ってスピーディーに行動していくべきだと思います。

社会に向かってもっと積極的な提案を

広西 今話をした技術のことでもわかるように、熊谷組が手がける土木や建築といった事業は社会との関係がとても深い分野です。その意味では、ESGの広がりは熊谷組にとって大きなビジネスチャンスでもあるわけです。現場に行って皆さんと接していて感じるのですが、熊谷組の社員はまじめで堅実な人が多い。その分、自分たちからお客様に提案することにちょっと遠慮がちのような感じがしますね。せっかく社会貢献につながるようなノウハウや技術を数多く持っているのですから、これからはもっと積極的にお客様や社会に提案していくことも大切だと思います。

湯本 そのためには自分たちの仕事がESGとどのように結びついているのか認識することが重要になりますね。その点でも、今回の「ESG取組方針」がこれから大きな役割を果たしていくことになると感じています。

ESG経営を実践して次の成長ステージへ

広西 最後にESG経営のG(ガバナンス)について、湯本さんは何か課題と感じるものはありますか?

湯本 私が社外取締役に就任した3年前と比べて取締役会での議論も見違えるように活性化していますし、すぐに思い浮かぶものがないというのが正直なところです。コーポレートガバナンスについては継続的に強化されているように思います。

広西 しかし、ESGの取組みに限っていえば、まだ議論が不足しているのではないでしょうか。環境面やダイバーシティ、働き方改革など社会面についても、これからは経営上の課題として定期的に報告を受けて議論するような流れを整えていくことも必要だと感じています。

湯本 おっしゃるとおりですね。これまで熊谷組では事業の再生が大きな経営課題でしたから、取締役会での議論も事業に重心が置かれがちでした。しかし、「成長への挑戦」を掲げた新しい中期経営計画が動き始めた今、取締役会でも次のステージを見据えた議論を活発化させるべきでしょう。ESGという視点は、熊谷組が今後新たな成長をとげていくためには欠かせない要素なのですから。

広西 ESG経営を推進していくためには、現場での実践とともにリーダーシップが重要となります。最近、櫻野社長も社員たちとの懇談会に力を入れていますね。このような全社が一体となるような取り組みを継続的に進め、ESGを新しい文化として根づかせていってほしいですね。

湯本 ESGの広がりとともに持続可能な社会づくりへの意識が世界的に高まっています。このような変化の中で熊谷組が担うことのできる役割は数多くあるはずです。社員の皆さんには、熊谷組の次の100年に向けて、安心安全な社会づくりに地球規模で関わっていこうというくらいのマインドで仕事に取り組んでいってほしいですね。そんなステージにある熊谷組に、社外取締役として関われることができてとても嬉しく思っています。

広西 熊谷組か社会の変化に対応し、持続的な成長を遂げていくためにも社外取締役ならではの視点からこれからも積極的に意見を発していきたいですね。