社会とのつながりを意識した“魅せる”現場づくり  生徒たちが現場で学ぶ「くまゼミ」を展開

東京女子学園では、創立120周年の一環として新校舎の建設を進めています。熊谷組はその工事を担当するとともに、施工の現場を学びの場とした体験型授業「くまゼミ」をコラボレーションで実施し、未来を担う生徒たちの育成に貢献しています。

施工中の現場を生徒たちの学びの場にした「くまゼミ」

作業所長 堀江 恵介

東京の中心部、港区芝にある東京女子学園は、1903(明治36)年に創立された女子中学校・高等学校です。「人の中なる人となれ」を教育理念とし、1世紀以上にわたって日本ばかりでなく世界で活躍する生徒たちを育ててきました。2023年には創立120周年を迎え、その一環として、グローバル化・デジタル化が進む時代にふさわしい新校舎の建設を進めています。熊谷組は、この新しく誕生する学び舎の建築工事を担っています。
新校舎は、建築面積約2,045㎡、地上12階建て。1~6階が校舎、7~10階がオフィスフロア、吹き抜けの11・12階が体育館などの施設、そして屋上がテニスコートという、都心立地の校舎らしい先進的かつ複合的な設計となっています。
2020年3月に既存校舎の改修・解体工事が始まり、新校舎が着工したのは2021年4月。工事は、既存校舎の1棟で授業を続けながら、隣地で施工を行う“居ながら工事”となりました。今回のプロジェクトで現場を統括する作業所長の堀江恵介は次のように話します。
「工事が始まったばかりの時期は、慣れない工事の騒音や振動に東京女子学園様から戸惑いの声があがりました。そこで、何度も協議を重ねて施工を工夫しました。このようなコミュニケーションを重ねているうちに、東京女子学園様から思わぬご提案をいただくことになったのです」
そうしてスタートしたのが、熊谷組の施工中の現場を生徒たちの学びの場として活用する「くまゼミ」でした。

生徒たちと一緒になって考えた体験型のコンテンツ

東京女子学園では、新しい取り組みとして企業や団体などと連携した体験型の授業「探求ゼミ」を実施しています。この「探求ゼミ」のコンテンツの1つとして、「熊谷組とともに授業を展開したい」というのが東京女子学園からのご提案でした。「気になる工事の音や振動をもっと近くで体験させ、学びに活用したい」というお話をいただいたのです。熊谷組にとっても、将来を担う若い人たちに日々の仕事を知ってもらう貴重な機会。現場の作業所と本社ダイバーシティ推進部などの共同により、「くまゼミ」の名称のもと、東京女子学園と熊谷組のコラボレーションによる授業が始まりました。堀江所長は振り返ります。
「このような試みは、現場としてももちろん大歓迎です。当初はゼミのほとんどを学校の教室で行い、私や社員たちは月に1回くらいのペースで講師を務めることを考えていたのですが、生徒たちから次々とリクエストがあり、私たちも乗り気になって提案しているうちに、ゼミのほとんどを施工中の現場で行うことになったのです」
2021年5月からスタートした「くまゼミ」に参加した女子生徒は9名。合計12回のプログラムが実施されました。

生徒たちが現場に立ってコンクリート打設を体験

その「くまゼミ」のコンテンツの一部を紹介すると、「安全帯について」「コンクリート打設体験会」「クレーン見学」「VR(バーチャル・リアリティ)体験」「CAD見学」「現場パトロール」「女子会」など――。
たとえば、「コンクリート打設体験会」は、生徒がつぶやいた「コンクリートを“打つ”ってどういう意味?」という疑問がきっかけになって実現したコンテンツです。協力会社の熟練作業員が先生役になって現場で実際のコンクリート打設を体験しました。また、「VR体験」では、熊谷組が作業員の教育用に作成したアプリを使って、高所端部での作業を仮想体験。毎回ゼミ後に行うアンケートでは、生徒から次のようなコメントが寄せられました。
『どんなに急いでいても、命綱は必ずつけないといけないことがわかった。VRでもめちゃ怖かったのに毎日やっている現場の方はすごいと思った』
「女子会」も、生徒たちから評判の高かったコンテンツです。作業所の会議室に、女子生徒と熊谷組や協力会社などの女子社員が集まり、仕事のこと、恋愛のことなどリアルなトークを交わしました。将来の働き方を考えるきっかけになるなど、生徒たちにとってとても貴重な体験になったようです。

コンクリート打設体験の様子

働き方改革やダイバーシティなど現場での取り組み

近年、企業におけるSDGsへの取り組みに社会の関心が高まっています。熊谷組の現場でも、「くまゼミ」のような施主様や近隣の人々との交流ばかりでなく、さまざまな取り組みを進めています。
フレックスタイム制度の導入など、働き方改革の推進もその一つ。さらに、業務の効率化を図るために、DX推進にも力を入れています。工程管理に3次元モデルのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を導入したり、現場に大型ディスプレイを設置して毎日の朝礼で情報共有を行ったりしています。
また、「くまゼミ」の一環として、東京女子学園の先生に講師になっていただき、熊谷組の社員や協力会社の作業員が参加し、SDGsの基本を学ぶセミナーも開催しました。このような現場での取り組みについて、堀江は次のように語ります。
「現場では、熊谷組の社員や協力会社の作業員、派遣会社の事務スタッフ、さらには女性から高齢者まで多様な人たちが力をあわせて働いています。私がこだわっているのは、このように現場に関わるすべての人たちが“楽しく”働ける環境づくり。安全管理にしても、働き方改革にしても、この“楽しく働くこと”がなによりもの前提になると思っています」
協力会社とのチームワークのよさも、堀江の現場の特長です。「くまゼミ」の展開でも、各社の現場リーダーが中心となった「職長会」が加わって一緒に企画を考え、現場での授業では率先して先生役を引き受けてくれました。年末には恒例となっているイベント「餅つき大会」を行い、「くまゼミ」の生徒たちも招待してとても喜ばれたそうです。

現場の社員や作業員にとっても新鮮な学びの機会に

「くまゼミ」では、生徒たちの発案で現場に掲載する安全ポスターの制作も行われました。このコンテンツが一番印象的だったと堀江は話します。
「生徒たちが何度も現場に足を運ぶうちに安全の大切さに気づき、それを私たちがはっとするような素直な言葉で表現してくれました。このポスターは本社での評価も高く、熊谷組の全国の現場で貼り出されることになりました」
もちろん、「くまゼミ」は生徒ばかりでなく、現場の社員や作業員たちにも新鮮な学びの機会になったことはいうまでもありません。自分たちの仕事ぶりを間近で生徒たちに見られ質問されることによって、仕事への誇りや責任感も高まります。現場の整理整頓が行き届き、安全管理の意識も徹底されました。「くまゼミ」が評判を呼び、社内外から多くの見学者が現場を訪れました。
熊谷組に入社以来ずっと建築の現場一筋に歩み30年以上のキャリアを持つベテラン作業所長の堀江も、10代の生徒たちからたくさんのことを学んだと話します。
「高い仮囲いがめぐらされた建築の現場は、街や生活とかけ離れたイメージを抱かれがちです。しかし、これからの時代、私たちはもっと社会とのつながりを意識すべきではないでしょうか。“見せる”だけでなく“魅せる”現場づくりの重要さを若い世代の社員たちに伝えていきたいと思っています」
この“魅せる”現場づくりについて、とても印象深い言葉があります。東京女子学園の建設プロジェクトリーダーであり、「くまゼミ」の発案者でもある棚橋毅理事からいただいたメッセージです。その一部を抜粋して紹介しましょう。
『日本全国を探しても、いや世界中を探してもこのような素晴らしい現場体験を、年間を通じて中高生に実施できる会社はないと思います』
「くまゼミ」はとても好評で、2022年6月からは新しい生徒たちが参加して2期目のプログラムがスタートしました。そして、東京女子学園の新校舎も2022年11月に完成※1し、2023年4月からは新しい校舎で東京女子学園※2の新学期が始まります。
 熊谷組は、これからも社会とともに歩みながら、社会を支える仕事に取り組んでいきます。

※1 既存校舎の解体と外構工事は竣工まで継続する予定です。

※2 東京女子学園中学校・高等学校は2023年度より校名を「芝国際中学校・高等学校」とし、共学化することを発表しています。

「くまゼミ」で生徒が作成した安全啓発ポスターを現場に掲出

工 事 概 要

工事名 (仮称)東京女子学園中学校・高等学校建替え計画
発注者 学校法人 東京女子学園
場所 東京都港区芝4丁目1-30
用途 中学校又は高等学校  事務所  自動車車庫
工期 2021年4月1日~2023年10月31日
設計者 久米設計・熊谷組・建築設備設計研究所・設計共同企業体
延べ床面積 18.095.28㎡