クレーン吊り荷直下の安全システムの開発

2024年02月20日

株式会社熊谷組(代表取締役社長 櫻野 泰則)は、建設現場内のクレーン作業による吊り荷の直下に侵入した人をAIとGNSSでリアルタイムに監視及び吊り荷直下を可視化する安全システムを開発しました。(特許出願中)。
稼働中のクレーンの吊荷直下の危険領域に人が入った場合にシステムの警報装置が動作して注意喚起を行います。またクレーン吊り荷の真下をLED投光器でリアルタイムに自動追尾して照射することで可視化しました。

1.背景

建設現場内ではクレーンによる資機材の揚重作業が頻繁に行われています。時には複数の工種の作業区域が重ね合わさる状況が発生する場合があります。揚重作業付近で作業をしている人が移動する吊り荷の存在に気付かず、吊り荷の下に入り込んだり、接近したりする可能性があります。
このような重大災害につながる危険有害要因となるヒューマンエラーを防止できるシステムの開発が必要と考えました。

2.概要

システム内では、移動中の吊り荷及び人の位置が鳥瞰図(平面座標)上にマッピングされます。カメラの設置高さ・角度の画像を多くのパターンをシステムが学習し、カメラの設置位置座標をGNSS(Global Navigation Satellite System)で取得し、画角内の人の位置を計算して表示させています。吊り荷の位置は、クレーンのブーム先端に取り付けたGNSSデバイスがリアルタイムに座標を取得して、リアルタイムで鳥瞰図に表示できます。(図-1)

(図-1)カメラ映像を鳥瞰図に変換
(図-2)システム概要図

クレーン吊り荷位置から危険領域(範囲は任意に設定可能)に人物が侵入するとAIが人物認証してシステムが瞬時に検知し、警報装置で周囲に注意喚起を促します。また吊り荷位置の座標を認識できる電動雲台の上にLED投光器を設置しました。このLED投光器は、常に吊り荷の真下を自動追尾して照射するので、吊り荷直下を可視化できるので人の侵入を防止できます。(図-2)

3.システム構成

この安全システムは、Webカメラを用いて工事エリア内を撮影します。AIを用いてWebカメラ画角内に映った人を認識し、アプリケーション内の鳥瞰図上に人の位置を表示します。さらに、「クレーンブーム先端に設置したGNSS位置≒吊り荷位置」(写真-1)の挙動と周囲の危険領域を鳥瞰図上に加えます。なお、吊り荷直下を可視化するために電動雲台上のLED投光器(写真-2)が自動追尾しながら作業をしている人の床面を照射します。そのため、周囲で作業をしている人は吊り荷の挙動に気付くことができます。

危険領域内部に作業員が侵入していると鳥瞰図上で判定された場合、任意の場所に設置される警報装置(LEDフラッシュライト)が起動します。加えて、システムのアプリケーション画面上に「近接検知」が表示されるため、インターネット経由で離れた場所でも危険な状況であることをiPhone等でもシステム画面を確認することができます。(写真-3)
クレーンのブーム先端にはネットワークを介して補正情報を受け取ることが可能なリアルタイムキネマティック(Real-time kinematic, RTK)対応のGNSS装置が取り付けられているため、フックブロックの水平座標は数センチメートルの誤差で追随することができます。

写真-1
システム構成機器
写真-2
GNSSアンテナ及び本体
写真-3 システム画面(AI検知動作状況)

4.実施工検証結果

熊谷組・大豊建設中央新幹線東雪谷非常口新設工事共同企業体 東雪谷工事所にてクレーン吊り荷直下の安全システムを導入し、その効果を確認しました。(表-1)
今回のシステムは危険エリア内に侵入した人を検知することが目的の1つです。AIが危険と判定した事例で真に危険であった割合(再現率)が最も重要な指標です。今回の実証では再現率は97.6%と高い値が得られた。(ランダムに抽出した200枚のフレームから「近接検知」フレームを検証データとした。)今回のシステムは再現率が非常に高く、フェールセーフの面では良好な結果を得ることができ、監視員を配置した場合と同等の効果を得ることを確認しました。

表-1 実施工検証概要

現場名 熊谷組・大豊建設中央新幹線東雪谷非常口新設工事共同企業体東雪谷工事所
検証期間 令和5年10月~令和5年11月
検証場所 建設現場内
検証方法
  1. クレーンの吊荷直下半径3.1mの危険領域に入った場合に警告の判定が出るとともに、システムの警報装置(フラッシュライト)が動作する。
  2. クレーン吊荷の直下を青色レーザービーム光が照射されて可視化した。
検証結果
  1. 吊荷直下の作業員の検知が可能
  2. 吊り荷の直下の可視化が可能
  3. AIの再現率 97.6%

再現率 : 危険と判定した事例で真に危険であった割合

5.今後の検討

クレーン吊り荷直下の安全システムを構成する要素である監視カメラの高性能化、AI画像判別のための学習量増加によるカメラ映像内の人検知の高精度化、さらには電動雲台及び制御盤の小型化を行い、多くの工種の建設現場での採用を目指します。
システムの応用としては、AIによる認証を人以外にも車両・重機も認証できますので、人との接近・接触を監視するシステムに応用することできます。また、GNSSで座標管理をしているためクレーンの吊り荷の荷卸し場所もGNSSを利用して特定することも可能となり、クレーンのガイダンス運転や自動運転の可能性も検討予定です。
今回の安全システムはGNSSとAIを組み合わせることで様々なシステム化の可能性を秘めています。今後も実証実験を継続し、作業の効率化と安全への取り組みを加速いたします。

【お問い合わせ先】

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株式会社熊谷組 経営戦略室
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