大山ダムホタルビオトープが、JHEP認証を取得 ホタルを対象としたビオトープとしては国内初

2015年06月04日

 株式会社熊谷組(取締役社長 樋口 靖)は、大山ダム(大分県日田市)の「ホタルの棲める環境づくり(ホタルビオトープ技術)」について生物多様性の保全や向上に貢献する取り組みを定量評価する認証制度であるJHEP認証を取得しました。ホタルを対象としたビオトープとしては国内で初めての認証取得となります。

1.JHEP(※1)認証制度とは

JHEPは、公益財団法人 日本生態系協会が、アメリカで開発され、環境アセスメントなどで用いられている「ハビタット評価手法HEP」をもとに開発した環境評価方法です。
 JHEP認証制度は、この評価手法を用いて当該地域の指標となるような植生や野生の生物の住みやすさを「事業前の過去の状況」と「事業実施後の状況」について、客観的、定量的に評価し、ランク付けするもので、生物多様性保全への取り組みを啓蒙・普及させることを目的としています。
※1 Japan Habitat Evaluation and Certification Programの略。

2.概要認証対象事業の概要

 大山ダムは、熊谷組が大分県日田市筑後川水系赤石川に建設した湛水面積60haの多目的ダムです。
 大山ダムホタルビオトープは、ダム建設地の日田市が昔からゲンジボタルの里として有名な地域であることから、地域への貢献や地元の子ども達への環境教育の場づくりを目的に設置されました。
 ホタルビオトープの設置場所は、複数の候補地から水の供給や水質、立地条件などを比較し、大山ダム上流の赤石川右岸側に決定しました。ビオトープには、ゲンジボタルが生息する場として、蛇行した「せせらぎ」と、瀬や淵のある池を配置し、周囲には近辺で自生している在来種の樹木や植物などを選定し、移植しました。
 また、ビオトープの施工完了後には、ダム下流の大山川で採取したゲンジボタルの成虫から産卵・孵化させた幼虫を水路や池に放流しました。

  (1)事業名称:大山ダムホタルビオトープ
  (2)所在地 :大分県日田市大山町西大山
  (3)区域面積:約270m2
  (4)施工期間:2008年9月~10月
  (5)事業実施者:株式会社熊谷組
  (6)生物多様性保全に対する取組みの主な内容
   ・地域性種苗による緑化や既存樹木の移植
   ・ゲンジボタルの生育に適した環境(底質、水深、流速等)の創出
   ・ダム下流の河川で捕獲した成虫から産卵、孵化させたゲンジボタルの幼虫を放流
   ・現地発生土の使用

施工直後
施工2年後

3.生物多様性保全の視点からの評価概要

 (1)評価方法
 大山ダムホタルビオトープが、完成した2008年を基準年として、生物多様性の価値(ハビタット評価値)について、過去30年間の平均値と事業実施による50年後の予測値を比較、評価しました。

 (2)評価種の選定
 評価対象地の面積、環境タイプ、動植物の生育情報などから、樹林環境タイプとしてケクロモジ-コナラ群集を選定しました。ケクロモジ-コナラ群集は九州内陸部の海風の影響を受けない山地帯下部における代表的な自然植生です。
樹林の評価種としては、鳥類のシジュウカラ、及び昆虫類のコミスジ、湿性環境の評価種としては昆虫類のゲンジボタルを選定しました。シジュウカラは、北海道から南西諸島まで広く分布し、低山帯から低地、樹林の多い公園や人家など、幅広い環境に生息します。コミスジは、平地や低山地の林縁などで見られます。緑被量との相関が強く、スギやヒノキなどの人工林よりも広葉樹林を好むので、良質な樹林の指標とされています。ゲンジボタルは、九州、四国、本州に分布する日本固有種です。幼虫は小川などの水中でカワニナという巻き貝を採食して成長し、翌年春に柔らかい土手に上陸して土中でさなぎになり羽化します。成虫は交尾のための合図として腹部末端を発光させます。このように、ゲンジボタルの生息環境を創出するためには、水中から陸上、空中におよぶ多様な生息空間について検討する必要があります。
 また、これらの評価種のうち、シジュウカラとコミスジについては既に開発されていたHSIモデルをもとに評価を行いましたが、ゲンジボタルについては定まったモデルがありませんでした。そこで、熊谷組でホタルが好む生息環境を明らかにするための選好性把握試験等を実施し、得られたデータ等をもとに日本生態系協会が新たにゲンジボタルのHSIモデルを作成し、これをもとに評価を行いました。

 (3)評価結果
 樹林環境タイプおよび湿性環境タイプごとの評価基準値とハビタット得点の推移を図1に示します。樹林環境、湿性環境のいずれとも事業で得られるハビタット得点が、評価基準値を上回ることが分かりました。
 その結果、本事業はJHEP認証事業に該当することが認められ、最終的な評価ランクはA+が得られ、ホタルが生息する湿性環境を含むビオトープとしては、国内で初めての認証取得 となりました。


図1 環境タイプごとの評価基準値とハビタット得点の推移

4.今後の展開

 熊谷組では、従来から自然環境や生物が生息する空間づくりに配慮し、ビオトープの創造のほか、屋上緑化の整備、ホタルの棲める環境づくり(通称:ホタルビオトープ)などを積極的に実施しています。特に、ホタルビオトープ技術は自然環境や生態系の保全、再生、創出のみならず、地元の小学校・中学校・NPO・自治体などと連携して「工事現場でのホタル鑑賞会」など、地域の住民や子供たちへの環境学習の場としても活用しています。
 このたび、大山ダムホタルビオトープがホタルを対象としたビオトープでは国内で初めてのJHEP認証を取得したことにより、当社の取り組みが生物多様性に貢献している「社会的証明」になるとともに、当社のホタルビオトープ技術に対する信頼性が一層向上することが期待できます。
 今後は広くお客様などにアピールを行い、ダムやトンネルなどの土木工事案件や、都市部ビル屋上などへの技術提案・設計案件に広く展開していく予定です。

以上

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