インフラの劣化診断にも応用可能な「指向性音カメラ」の開発
2015年02月23日
株式会社熊谷組(取締役社長 樋口 靖)は、特定の方向からの音を可視化して表示する「指向性音カメラ」を開発しました。本技術を用いることによって、壁などで囲まれた反射が多いような場所であっても、音の発生方向・大きさといった情報を可視化して確認することができるようになりました。
1.背景
通常、音は眼で見ることができません。このため、音を視覚的に表示することのできる機器があれば、音をもっとわかりやすく捉えることができると考え、これまで「音カメラ」※1を開発してまいりました。
「音カメラ」は全方位の音を計測することができます。しかし、壁などで囲まれたような場所では、音源から直接届く音と壁などで反射した音が干渉するなどしてしまい、音の発生方向を特定しにくい場合もありました。
※1 音カメラとは、音の発生方向、音の大きさ(音圧レベル:dB)、音の高さ(周波数:Hz)を特定し、
デジタルカメラから取り込んだ画像上にそれらを表示するものです。平成13年6月13日に、中部電
力株式会社、山下恭弘信州大学名誉教授と当社が共同で開発し、発表しています。
2.概要
今回開発した「指向性音カメラ」は、先に開発した「音カメラ」の技術を向上させて指向性を持たせ、カメラが向いている方向の音を効率的に計測することが可能となりました。カメラ後方の音は遮音層によって低減されるため、カメラ前方の音に対する干渉などの影響を最小限にすることができます。
計測データを記録しながら、リアルタイムで結果表示を行うことができ、その場で音の情報を確認することができます。
3.特徴
今回開発した「指向性音カメラ」は、以下に示す特徴があります。
① カメラが向いている方向からの音を効率的に調査できます。
② リアルタイムで測定結果を表示できます。
③ 表示する音の大きさ(音圧レベル)や高さ(周波数)を任意に選択できます。
④ 測定可能な周波数範囲:1000~6500Hz
【従来の音カメラと指向性音カメラの比較実験の例】
実験室内で反射面を想定した実験を行いました。カメラの後方に反射面としての壁を設置し、カメラが向いている方向に置いた音源スピーカから音を発生させています。
従来の音カメラでは、後方の壁による反射音の影響で、音の到来方向を精度よくとらえることができない場合がありました。一方、指向性音カメラでは、後方からの反射音があっても、音の到来方向として音源スピーカの位置を精度よく示すことを確認しました。
【コンクリート床板試験体を用いた実験の例】
コンクリートの浮きや空隙を模擬したコンクリート床板試験体を対象にして、浮き剥離検知棒を用いて加振したときの発音の状況を指向性音カメラで測定しました。
健全部を加振したときは何も表示されませんが、表面の浮き部や内部の空隙部を加振したときはそれぞれ異なった高さ(周波数)の音が発生し、画面上で色の違いとして判別することができました。
4.今後の展開
国土交通省の調査によると10年後には全国に約70万橋ある2m以上の橋梁の43%が建設後50年を経過すると言われています。これらの橋梁の劣化を点検するツールとして、地方自治体や設計事務所、コンサルティング会社などへ積極的に提案していく予定です。
なお、本成果の一部は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト」の結果得られたものです。
以上
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部長:五十川 宏文
担当:小坂田 泰宏 (電話03-3235-8155)
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