あと施工補強材を用いた耐震補強工法の開発

2013年02月26日

 株式会社熊谷組(取締役社長 大田弘)は、あと施工補強材を用いた耐震補強工法の開発をしました。あと施工補強材として異型鉄筋とアラミドロープを使用して、構造実験を行い、その有効性を確認しました。

1.背景

 高度経済成長期おけるインフラ整備や建築物のストックの増加を背景に、耐震性の向上を目的として維持修繕工事市場が注目を集めています。また、建設マーケット全体に占める維持修繕工事の割合は、今後、増加していくと予想されています。加えて、建設インフラ・建築物に関わらず、供用中の構造物に対してその経済活動を止めることなく耐震補強・維持修繕を施工する社会ニーズは高まりつつあります。
 現在、鉄筋コンクリート造部材に対するせん断補強工法として、鉄板や繊維による巻き立て工法、鉄筋コンクリートの増厚などがあります。しかしながら、背面が地盤に接する地下または半地下構造物では、構造物の周辺を掘削して地盤改良で補強を行う手段もありますが、特に、都市部においては地下構造物や道路などの影響で工事費用や工期が莫大となります。また、補強工事には様々な制約を受け、実際にせん断補強を行うのが難しい場面が多くあり、供用中の集合住宅などの建物の場合では、占有者間の調整も必要となり、耐震性能を向上させる工事を実施するのが難しいのが現状です。

図1 補強対象構造物の一例

2.開発の概要

 このような問題に対する補強工法として熊谷組は、片面(一面)からあと施工補強材を施工することで既存RC造部材のせん断補強をする工法を開発しました。現在、せん断補強工法として鉄筋などのあと施工補強材を差し込む形式の補強工法は存在します。しかしながら、あと施工補強材の端部などに定着板を設けるなど、あと施工補強材自体を工夫し製品としている場合が多く、コストが増大していることが多くなっています。
 熊谷組では、形状がシンプルで、コストを抑えることができる直線状の異型鉄筋を用いた実験を行い、検証しました。また、供用中の構造物内では機械設備や配管等の影響で直線状の異型鉄筋では補強できないことを想定し、やわらかく、折り曲げ可能で高強力のアラミド繊維ロープ(前田工繊製)とエポキシ樹脂を組み合わせ、あと施工補強材とする工法の開発を行いました。

(b)アラミド繊維ロープ

図2 あと施工補強材の一例

3.構造性能確認実験

 既存RC造部材を模擬した梁試験体に対して、あと施工補強を施すことでせん断耐力が増加することを確認する実験を行いました。あと施工補強の手順は、試験体のコンクリートを穿孔し、異型鉄筋を挿入し、セメント系接着剤でコンクリートと一体化を図りました。(図3)
 実験は段階を踏んで実施をしました。第1段階では補強効果を確認する目的でせん断補強筋がない(無補強)既存RC造梁部材に対して異型鉄筋であと施工補強を施しました。第2段階では第1段階の結果を踏まえて、せん断補強筋が配筋されている試験体に対して、あと施工補強を施しました。(図4)
 実験結果から、異型鉄筋をあと施工補強材としてせん断補強を行った場合、通常のせん断補強筋を配筋した部材と比較して最大耐力は低下しましたが、せん断補強筋のない無補強の部材と比較して最大耐力が増加することがわかり、せん断補強効果を確認できました。そして、あと施工補強量を多くすることで最大耐力が上昇することがわかりました。(図5)
 また、アラミドロープをあと施工補強材としてせん断補強を行った場合、通常のせん断補強筋を配筋した部材と比較して最大耐力は低下しましたが、せん断補強筋のない無補強の部材と比較して最大耐力が増加することがわかりました。そして、補強量を多くすることで最大耐力は上昇することがわかりました。(図6)

図3 あと施工補強の施工手順状況一例

図4 最終破壊状況
図5 あと施工補強鉄筋の耐力の比較
図6 あと施工アラミドロープの耐力の比較

4.今後の展開

 今後は、構造物の大更新時代における社会のニーズに応えるべく、補強工法のバリエーションを増やすために様々な変動因子を設定した実験を実施し、より設計精度を向上させて、普及展開を図っていきます。

以上

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