プロ野球スタジアムを中核としたベースボールパーク
熊谷組史上でも希有なプロジェクトに挑む
兵庫県尼崎市で建設が進む「ゼロカーボンベースボールパーク」は、阪神タイガースの新しいファーム(二軍)施設です。ファームの本拠地となるスタジアムをはじめ、室内練習場、選手寮兼クラブハウスなどを新設。熊谷組は、多彩な魅力と先進の機能を集積させたベースボールパークの建設を担っています。
サステナビリティに配慮した先進のベースボールパーク
「ゼロカーボンベースボールパーク」は、尼崎市の旧小田南公園など約74,000㎡の敷地に、ファーム本拠地となる「日鉄鋼板SGLスタジアム尼崎」野球場やタイガース練習場、室内練習場、選手寮兼クラブハウスなどを新設するプロジェクトです。プロ野球の雰囲気を身近に感じながら市民が野球を楽しめる小田南公園野球場や広場、散歩やランニングができる周遊コースを整備するなど、地域ににぎわいをもたらすベースボールパークの建設工事です。
また、その名称にあるように、環境に配慮した様々な機能も大きな特徴です。太陽光発電・蓄電池、廃棄物発電、雨水・井水の活用など、先進の機能を取り入れています。
このように、プロジェクトでは多様な施設と機能が複合されます。建設を統括する工事所長の遠藤孝治は次のように語ります。
「随所に太陽光パネルを設置するなど環境に配慮した設計を取り入れています。何より難しいのは、大規模かつ複合的なプロジェクトのマネジメントです。建設の技術者として一生に一度巡り会えるか会えないかのプロジェクトと実感しています。」
熊谷組はこれまで数々の建築物を手がけてきましたが、プロ野球のスタジアムとなると実績も少なく、ノウハウの蓄積も多くはありません。どの建設会社にとっても希有なプロジェクトと言えます。遠藤は、初めてプロジェクトの話を聞いたとき、困難さを感じるとともに技術者としての挑戦心が湧いてきたと話します。
プロ野球スタジアムという希少な建築に挑む
野球場ならではの難しさを物語る典型的な施設が観客席であるスタンドです。外野側からスタンドを眺めると扇状をしています。直角の部分がほとんどなく、四角形を基本とする建築の常識から考えると複雑な形態です。また、高さ方向についても、20段ある客席シートに合わせて複雑な段差が設けられています。
「建築にあたっての墨出しも、デジタル技術を駆使し丁寧に行っています。仮設や型枠などの工事も同様で、そのため入念な計画が必要となりました」(遠藤)
ちなみに、タイガース練習場は一軍が使用する甲子園球場と同一の方向とスケールを採用しており、外野の天然芝も同じものを用いています。
室内練習場は2つのエリアで構成され、大きなエリアは縦60m×横60m×高さ22mという大空間。ここでも高度な技術が駆使されています。屋根を支えるトラス梁は長さ60mと長大になるため、30mに分割してあらかじめ地上で組み立て、中央に仮設を設けるベント工法によって空中で結合させるという高精度な施工を行っています。また、屋根についても、コイル状の屋根材を搬入し、現場で加工して施工する手法を採用しました。
市街地の現場ならではの綿密な計画と柔軟な対応
建設の現場は住宅地に隣接しているため、地域の人たちにも配慮して、さまざまな工夫を行っています。車両の搬入経路を限定しているほか、防塵対策として散水やタイヤの洗浄などを徹底。建設機械も低騒音型のものを導入しています。
工期が限られるうえに、関西エリアでは大阪・関西万博の工事が進むなど作業員の確保も難しい問題です。豊富な経験を持つ遠藤は、綿密な計画を立て柔軟に対応しています。
「この現場では、建築と並行して土木の工事も行っています。工期が進むにつれ余剰地も少なくなるため、それを見越して唯一の搬入経路である敷地北側に4つの搬入ゲートを設けるなど、工事を円滑に進めるための対策を図っています」(遠藤)
また、所長として最優先で取り組むべきテーマが現場の安全管理。野球場を取り囲むように張られる防球ネットを吊る鉄柱は高さ54mにも達します。こうした高所の作業を可能な限り減らし、地上で施工できるように工夫するなど随所に気を配っています。
緊張感もあるが、やりがいや誇りも大きいプロジェクト
2023年3月に始まった工事はまもなくピークを迎え、最大時で1日約400名の作業員による工事が見込まれます。これらの現場を取りまとめる熊谷組社員は若手を中心に20名弱。環境配慮型技術の活用やDXの推進を任せるなど、社員の育成についても積極的に取り組んでいます。遠藤の発案で、甲子園球場や現ファーム本拠地である鳴尾浜球場にも見学に行きました。主任というポジションで現場を取り仕切る目時雄介は、「野球場の建設は二度と経験できないようなチャンス。それだけに緊張感もありますが、やりがいや出来上がった際の誇りも大きい。この経験を自分たちの成長につなげていきます」と話します。
工事は2025年1月に竣工し、同年4月にゼロカーボンベースボールパーク」が開幕します。近い将来、このファーム本拠地から羽ばたいた若手選手が甲子園球場で活躍する日がやってきます。それと同じように、この現場で知見を身につけた若手社員が熊谷組の次代を担っていくことになるはずです。
工事概要
工事名 | 阪神タイガース二軍施設移転計画新築工事 |
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発注者 | 阪神電気鉄道(株) |
設計・監理 | (株)久米設計 |
工期 | 2023年3月1日~2025年1月31日 |
用途 | 第一工区 野球場、公園 第二工区 宿舎、室内練習場 |