鉄骨造建物における無溶接耐震補強工法の開発

2013年03月18日

 株式会社熊谷組(取締役社長 大田弘)は、火気を用いない無溶接による鉄骨造建物の補強工法を開発しました。本工法は接着剤を用いて補強鋼板と対象部材を一体化することで補強するものであり、構造実験によりその有効性を確認しました。

1.背景

 鉄骨造建物の耐震補強工事では現場において鋼材を接合するために溶接が多く使用されます。この現場溶接を用いた施工の際には火花や煙が建物本体あるいは製造や保管されている商品などに影響を及ぼさないように仮設・養生による対策が施されます。しかし溶接とは異なる火気を用いない工法で施工できれば商品などを傷つける等の懸念が払拭されます。さらに可燃物を扱う建物の工事をより安全に進めることが可能となり、また溶接関連の仮設の省力化にもなります。品質面においては、薄肉の部材に対する溶接補強の難しさや品質確保が難しくなる下向き以外の溶接姿勢による溶接施工の必要性がなくなり、鉄骨造建物の耐震補強工事の品質安定に寄与することが期待できます。

2.概要

 本工法は薄肉の角形鋼管柱の補強を想定して開発しました。補強対象の角形鋼管柱の表面に所定の板厚の鋼板を接着剤により接着することで既存部材を補強します。補強鋼板端部には接着剤が硬化するまでの間の位置確保と接着層の早期剥離を防ぐ目的を兼ねたボルトを配置しています。補強鋼板を接着により角形鋼管と一体化することで部材断面性能が向上し、耐力が補強前に比較して増加します。

 接着には二液混合型のエポキシ樹脂系接着剤を用いています。エポキシ樹脂は材齢30年後においても性能劣化がなく補修材料として機能を発揮しているとの報告があります。今回採用した接着剤は常温で硬化し、接着強度が大きいとともに変形追従性能を有する特徴があります。接着強度が大きいという特長を有しますが塗布作業も容易に行うことができます。この接着性能を十分に発揮させるため角形鋼管と補強鋼板の接着面は接着施工前にショットブラストにより表面処理(目荒し)を行います。

3.構造性能確認実験

 補強の効果を確認するために構造実験を実施しました。実験は単部材の角形鋼管に補強の有無をパラメータとした試験体を製作し、引張または圧縮の軸力を載荷する形式で実施しました。引張実験では接着補強試験体は無補強試験体に比較して約1.2倍の最大耐力を示しました。圧縮実験では接着補強試験体は無補強試験体に比較して約2.0倍の最大耐力を示しました。以上の実験から本工法の補強効果を実証的に確認することができました。

実験風景

4.今後の展開

 本工法の最大の長所は「無溶接による補強工法」です。この長所を活用できる鉄骨造建物の耐震補強案件に対して積極的に提案していきたいと考えています。更に今後の研究開発において、鉄骨造以外の構造形式への適用あるいは曲げやせん断に対する補強方法についても検討し発展させたいと考えています。

以上

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