座屈拘束筋違の鉄筋コンクリート造骨組への接合方法を開発

2012年11月29日

 株式会社熊谷組(取締役社長 大田弘)は、大阪工業大学(学長 井上正崇)工学部建築学科吉敷祥一講師の指導のもとで、座屈拘束筋違の鉄筋コンクリート造骨組への新しい接合方法を開発しました。本年度は性能確認実験を行い、その有効性を確認しました。

1.背景

 地震時の建物の揺れを低減するダンパーとして用いられる座屈拘束筋違は、鋼材の周囲をコンクリートなどにより覆うことで座屈を抑制し、地震時の安定的なエネルギー吸収効果を意図した制振デバイスです。従来、座屈拘束筋違は、主に鉄骨造や鉄骨鉄筋コンクリート造の建物に用いられることが多く、鉄筋コンクリート造建物に用いられることはあまりありませんでした。耐震改修(補強)で鉄筋コンクリート造建物に用いられる場合などでは、既存建物の柱や梁に沿うように鉄骨部材を強固に固定した上で筋違材を設置することが一般的ですが、工事が大掛りになり、鉄骨部材と既存部材を接合するための埋め込みアンカーボルトの施工に伴う騒音や振動が問題となることがありました。

2.開発の概要

 今回開発された接合方法は、柱や梁に鉄骨を設置することなく、PC鋼材を用いた比較的簡便なディテールにより鉄筋コンクリート造骨組への座屈拘束筋違の接合を可能としました。接合部開発にあたっては、座屈拘束筋違の地震エネルギー吸収効果が十分に発揮されるように、PC鋼材による締め付け力を座屈拘束筋違の容量に応じて設計する手法の研究を行いました。さらに新築建物においては、地震時の建物骨組躯体での塑性ヒンジ発生位置をコントロールするヒンジリロケーション法を取り入れ、接合部の変形が座屈拘束筋違の耐震性能を阻害しないように配慮しています。
 この接合部について、模擬試験体による構造性能確認実験を実施し、意図した接合部性能が発揮され、座屈拘束筋違による安定的な地震エネルギー吸収効果が得られることを確認しています。
 開発された接合部の概要を図1に示します。Type-Aは新築建物を対象としたもの、Type-Bは既存建物への耐震補強を想定したものです。両者ともに、座屈拘束筋違を取り付けるガセットプレートを高強度PC鋼材の張力により梁部材に圧着接合しています。Type-Bでは圧着接合用PC鋼材を梁の両側に配置することによって、耐震補強に適用する場合に既存躯体への影響が最小限となるように工夫しています。Type-Bにより耐震補強を行う場合には、スラブにPC鋼材を通すための孔をあけるだけでよく、従来の柱や梁の広い範囲に埋め込みアンカーボルトを設置する方法に比べて、格段に補強工事が簡便なものとなります。
 新築建物に本接合法を適用する場合には、ヒンジリロケーション法を取り入れる事によって、より高い接合部の構造性能を確保することができます。一般に、極めて大きな地震動を受けた場合に鉄筋コンクリート造建物では架構骨組がダメージを受け、特に梁端部に塑性ヒンジが形成されますが、このことにより接合部の構造性能が低下することが懸念されます。本研究開発では、梁主筋にカットオフ鉄筋を設けることによって梁端部における塑性ヒンジの発生位置を制御するヒンジリロケーション法を採用し、接合部の変形により建物の耐震性能が阻害されないような配慮がなされています。耐震改修ではヒンジリロケーション法の適用は困難ですが、PC鋼材を外部に設置する方法により、十分な構造性能を確保した上で、従来に比べて比較的簡便な補強工事の施工が可能となりました。

図1 接合部ディテール(イメージ図)
構造性能確認実験全景
埋込プレートタイプ ヒンジリロケーション無し   埋込プレートタイプ ヒンジリロケーション有り
PC鋼タイプヒンジリロケーション無し   PC鋼タイプヒンジリロケーション有り

開発された接合方式を用い、上記のような座屈拘束筋違材の
配置パターンが実現でき、採光や通風性をなるべく阻害する
ことなく、建物の耐震性を向上することが可能となる。

図3 座屈拘束筋違設置パターン

図4 開発された接合部を使った座屈拘束筋違の適用例(1)
図5 開発された接合部を使った座屈拘束筋違の適用例(2)
図6 開発された接合部を使った座屈拘束筋違の適用例(3)

3.構造性能確認実験

 開発された接合部について、模擬試験体による構造性能確認実験を実施しました(図2)。地震時に鉄筋コンクリート造骨組が受ける応力変形状態を忠実に再現し、想定される範囲をはるかに超える変形状態まで接合部性能を確認しています。
 カットオフ鉄筋を設けた試験体では、狙った通りに筋違材接合部領域の外に塑性ヒンジが形成され、ヒンジリロケーション法により梁主筋の降伏位置の制御が可能であることが立証されました。図2に示した各試験体のひび割れの発生状況からも、ヒンジリロケーション法により筋違材接合部の変形が抑制されている様子が見て取れます。
 実験結果から、開発された接合部ディテールにより座屈拘束筋違の持つエネルギー吸収能力が、鉄筋コンクリート造骨組において存分に発揮されることが確認され、ヒンジ位置を制御するカットオフ鉄筋の働きなどの多くの興味深い力学挙動の詳細が明らかになりました。

4.今後の展開

 座屈拘束筋違の配置パターンには図3に示すように数多くありますが、今回開発された接合ディテールはこれらのほぼ全てに適用が可能です。接合ディテールが簡便であることから、従来の設置法では難しい状況でも適用可能性が高まると考えられ、今後、新築・耐震補強を問わず、低層から高層までの幅広い鉄筋コンクリート造建物への適用を積極的に提案していきたいと考えています。

以上

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