沖縄県の公募事業「微生物等を活用した汚染土壌の浄化処理技術開発事業」によるバイオ処理実証実験を開始-油分解菌を利用した油含有土壌のバイオ処理実証実験-

2012年05月08日

 南洋土建株式会社(代表取締役:比嘉森廣 本社:沖縄県那覇市)および株式会社熊谷組(取締役社長:大田弘 本社:東京都新宿区)、テクノス株式会社(代表取締役:中川正俊 本社:愛知県豊川市)は、将来の米軍基地移転後の跡地開発における汚染土壌浄化技術に対する沖縄県公募事業に共同応募して採択され、大臣確認(国の安全性評価に適合)を取得した石油分解菌を用いた油汚染土壌の浄化実験を開始いたしました。
 上記の実験で使用する石油分解菌は、立命館大学が探索した油分解菌に対して、経済産業省および環境省が策定した「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」への適合確認を申請し、平成23年5月6日付にて経済産業省及び環境省より、指針に適合しているとの大臣確認(申請者:立命館大学、㈱熊谷組、日工㈱)を受けた微生物を用います。
 沖縄県には多数の米軍基地が存在し、米国での事例でも明らかなように米軍基地跡地には油等の汚染が顕在化しています。特に、本実験では沖縄固有の課題、すなわち沖縄特有の粒子の細かい土質の取り扱いや高温多雨という天候下での浄化実験などが存在し、それら課題のブレイクスルーには地元の企業である南洋土建を中心とした3社の土木事業の経験や土木技術が大きく貢献します。また、汚染土壌の浄化に関しては、熊谷組とテクノスが多くの実績を有し、石油分解菌を活用したバイオ浄化実験では、熊谷組が立命館大学と実施してきた共同研究データが参考となります。さらに、本事業終了後には、工法を県内に普及展開させる目的にて工法研究協会を設立し、沖縄県内への技術の普及や新産業の創生を促していく計画です。

1.背景

 平成15年2月に施行された土壌汚染対策法以降、土壌地下水汚染問題への認識はますます広がりを見せ、土地売買や再開発等の際には土壌地下水汚染の調査・対策が広く行われるようになってきた。また、平成22年4月には改正土壌汚染対策法が施行され、掘削除去に偏重した対策の見直しが法改正の大きな目玉となっており、オンサイト(原位置あるいは敷地内)での浄化がますます進むものと考えられている。一方、油汚染問題に関しては、平成18年に油汚染対策ガイドラインが制定され社会的関心が高まりつつあり、油膜や油臭などの生活環境保全の上で土地所有者などに厳しい対応が迫られている。
油汚染の対策としては、汚染土壌を掘削した後に、非汚染土壌と置換する方法や石灰と混合する方法、微生物を利用したバイオレメディエーションなどがよく用いられている。油汚染はトリクロロエチレンなどの揮発性有機化合物に比べ、微生物による分解性が高く処理に適していると言われているが、そのバイオレメディエーションに対しても、処理に要する時間が長い、土壌中で分解微生物がどのように働いているかの挙動や活性状態が不明であり、制御型の処理が難しいなどの問題点が多く指摘されている。
 そこで、熊谷組では立命館大学および日工㈱とで、各社が持つ独自のバイオ浄化工法において、油分解能が高く、かつ安全性の高い分解菌を用い、浄化をより確実に、安全に行うための検討を行ってきた。熊谷組の保有する「原位置注入工法」は、立命館大学、星和電機㈱とともにNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「大学発事業創出実用化研究開発事業」(2006~2008年度)の支援を受けて開発した。

2.実証実験の概要

(1)バイオパイル工法

図-1 バイオパイル実験装置図

 本実験では、バイオパイルによる分解菌投与法(オーグメンテーション)と栄養塩や有機資材(堆肥)投与による土着の石油分解菌利用(スティミュレーション)による浄化性能の把握を行う。実験には沖縄特有の粘性土を用いた模擬汚染土壌(A重油混合)を作成し、通気性の改善や吸気による分解促進を把握するとともに、沖縄の気候にあわせた管理手法を検討する。分解菌のモニタリングとしては、立命館大学が研究開発した遺伝子解析手法により投与菌のモニタリングや土着の油分解に寄与する菌の存在確認等、分解過程でのリアルタイムの菌の増減把握を行い、常に分解に適した環境を維持するためフィードバックできるような活用を行う。
 実験場所は、南洋土建㈱資材置場(沖縄県浦添市)で実施する。本土壌混練法はバイオレメディエーション装置に土壌を入れ重量を定量し、添加する微生物の量と栄養の量を試算する。また、混練は微生物が死滅しない、かつ最適に土壌中に分散される回転数と混練時間によって管理される。排出された土壌は、バイオパイル(盛土)状に養生し、遺伝子解析技術を活用した環境-DNA解析技術などにより定期的にモニタリングし、浄化促進と微生物を追加する時期を確認する。
本浄化工法の特徴としては、以下のことが挙げられる。
① 大臣確認を取得した安全性の高い石油分解菌の使用
② 混練にて土壌中に最適に微生物を分散させ、かつ酸素を土壌中へ供給
③ 遺伝子解析技術により微生物を管理する

使用する石油分解菌の大臣確認書を図―2に示す。

図-2 実験で使用する石油分解菌および大臣確認書

 実験条件としては、石油分解菌を投入するオーグメンテーションと、土着の石油分解寄与菌を栄養塩添加により活性化させる方法(スティミュレーション)の2手法とし、比較のためのコントロールとあわせ3条件で実施する予定である。実験条件を表-1に示す。

3.バイオパイル実験状況

 現地のバイオパイル施工状況ならびに、施工後のバイオパイルを以下の写真1~写真6に示す。

バイオパイル完成(ブルーシート被覆前)
バイオパイル完成(ブルーシート被覆後)

写真1 バイオパイル全景写真

A重油
石油分解菌(左)および栄養塩(右)
石油分解菌および栄養塩、堆肥

写真2 模擬汚染土壌作成用添加剤

土壌混練り装置
土壌混練り状況(油添加時)

写真3 土壌混練り

パイル積み付け状況(1段目)
パイル積み付け状況(2段目)

写真4 バイオパイル製作

温度センサーおよび土壌酸素センサーパイル内設置 
温度および土壌酸素センサー 
温度および土壌酸素データロガー記録中

写真5 パイル内温度および酸素計測状況

水処理装置
脱臭装置(吸気管および気液分離装置、脱臭装置)

写真6 周辺環境保全装置:水処理装置および脱臭装置

4.今後の展開

 沖縄県には37施設の米軍基地があり、その面積は236,812haで県土全体の約10%を占める(平成16年1月1日時点)。今後、これら米軍基地が返還されれば、基地内で使用されていた燃料系油分(ジェット燃料、ガソリン、軽油、重油)や機械油(潤滑油系)に対する汚染土壌が顕在化されることが考えられる。以上のことから、返還された土地において汚染土壌の浄化が必要であると思われる。このような汚染土壌に対しても敷地内でバイオレメディエーションにより浄化を行えば低コストにより浄化が可能となる。
 また、国内市場においては企業の製造拠点が海外への移転が増加しており、国内の工場の閉鎖が進んでいる。このような跡地の売買を行う際は土壌汚染調査を行うことが多く、汚染土壌が発見されるケースが増加すると思われる。
 これまで県内で行われてきた汚染土壌の措置としては、汚染土壌の掘削除去措置が多く用いられており、搬出する土壌の運搬時の飛散や高コストであることが問題とされる。平成22年に施行された改正土壌汚染対策法の趣旨は、そのような掘削除去の偏重をなくし、汚染現地での浄化を推奨している。そこで、本浄化技術であるバイオレメディエーションを活用することにより、敷地内での施工が可能となるだけでなく、低コスト、環境負荷の少ない状態で浄化することが可能となる。これは、米軍基地だけでなく製造工場や都心、住宅街など幅広い状況での施工が可能となる。
 さらに、将来的には本事業で開発した工法を普及展開するための研究協会を設立する計画であり、本研究協会に参加すれば沖縄県内のどの企業でも本工法を平等に実施できる権利を持つことが出来る。前記したように、とくに県内企業への技術移転を積極的に図ることにより、県内企業の技術の向上とともに県内の新規事業創出に寄与し、県内での新たな雇用創出にも結び付けることができると考える。

以上

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 株式会社 熊谷組  広報室
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 担当:小坂田 泰宏 (電話03-3235-8155)

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 技術部長:門倉 伸行 (電話03-3235-8617)