汚染土壌サンプリング法「ジオカテーテル工法」を開発

2010年07月28日

 株式会社熊谷組(本社:新宿区 取締役社長:大田弘)および株式会社ワイビーエム(本社:佐賀県唐津市 代表取締役社長:吉田力雄)は、汚染土壌の新たなサンプリング手法として、水平ボーリングを利用した土壌採取法「ジオカテーテル工法」を開発しました。
 熊谷組は、平成18年度から平成20年度まで立命館大学および星和電機とともに、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「大学発事業創出実用化研究開発事業」による助成のもと、原位置での微生物による土壌浄化システム「バイオフレックスモール工法」を開発しました。本システムは、光(LED)照射による石油分解菌の活性化や遺伝子解析による微生物の定量化技術、地盤中での油汚染の挙動やシミュレーション解析などの基礎技術をもとに、建屋下への自在削孔技術と地盤中への菌体の的確な注入技術を組み合わせた原位置バイオ土壌浄化システムです。

1.背景

 平成15年2月に施行された土壌汚染対策法以降、土壌地下水汚染問題への認識はますます広がりを見せ、土地売買や再開発等の際には土壌地下水汚染の調査・対策が広く行われるようになってきました。さらに、平成22年4月には改正土壌汚染対策法が施行され、掘削除去に偏重した対策の見直しが法改正の大きな目玉となっており、原位置での浄化を推進する考え方がますます進むものと考えられます。一方、油汚染問題に関しては、平成18年に油汚染対策ガイドラインが制定され社会的関心が高まりつつあり、油膜や油臭などの生活環境保全の上で土地所有者などに厳しい対応が迫られています。
油汚染の対策としては、汚染土壌を掘削した後に、非汚染土壌と置換する方法や石灰と混合する方法、微生物を利用したバイオレメディエーションなどがよく用いられています。しかし、操業中の工場の建屋下などでは掘削が不可能なケースも多く、掘削することなく汚染された地盤中の原位置における汚染対策技術が求められています。また、油汚染はトリクロロエチレンなどの揮発性有機化合物に比べ、微生物による分解性が高く処理に適していると言われていますが、そのバイオレメディエーションに対しても、処理に要する時間が長い、土壌中で分解微生物がどのように働いているかの挙動や活性状態が不明であり、制御型の処理が難しいなどの問題点が多く指摘されています。
 このような背景のもと、原位置での微生物による土壌浄化システム「バイオフレックスモール工法」では、光(LED)による微生物活性化や遺伝子解析技術による微生物の定量化技術を組み合わせた高効率なバイオレメディエーションを開発し、さらに汚染拡散シミュレーションや地盤中での自在削孔技術などの土木技術を融合させることにより、工場直下などでの原位置浄化を可能としました。
 一方、本システムの実用化にあたっては、事前の汚染範囲の確認とともに浄化途中・浄化後の土壌中の汚染状況把握が必要となっていました。従来は、地上からの鉛直ボーリングによる土壌採取による調査が主でしたが、地上に障害物がある場合には種々の制限があったため、「バイオフレックスモール工法」で採用する水平ボーリングを利用した土壌採取装置を開発し、新たな土壌採取法である「ジオカテーテル工法」を完成させました。

2.概要

 サンプリングシステムは、図-1に示すように水平ボーリングで削孔する際にロッド先端に取り付けて地中の土壌を採取するための採取装置となっています。装置は、内管と外管とを備え、内管には採取した土壌の収納部を有しており、外管に設けられた土壌採取孔と位置を合わせることで土壌の取り込みを可能な形としています。外管の土壌採取孔の縁には、土壌を取り込むためのブレード状の取り込み板が備えられています。
 また、内管と外管とを中心軸線に沿って移動可能にするため、外管にはガイド孔、内管には突出するスライダーを備えており、内外管がねじれることなく長手方向に移動可能な機構としています。さらに、内管の外周面および外管の内周面には土壌を収納する前後において収納部内に水や土砂の浸入を防止するためのO-リングを備えた止水機能を持たせています。
 図-2、3により、土壌の採取方法を説明します。まず、図-2(a) 、図-3(a)のように、土壌採取装置は内管をロッド方向に引いた場合、内管の土壌採取孔(収納部)が外管によって覆われた状態となり、土壌を収納部に取り込み不可能な状態となります。次に、図-2(b)、 図-3(b)に示すように、内管をロッドとは逆の方向に押し出した場合、内管の土壌採取孔(収納部)と外管の土壌採取孔とが連通した状態となり、土壌採取可能な状態となります。
 次に、図-4により工場建屋下のような地中における土壌の採取方法を説明します。まず、図4(a)(b)に示すように、水平ボーリング機を用いて土壌の採取位置を通過して、削孔開始位置とは反対側まで削孔を続け、削孔ビットを地上に出す。地中を掘り抜いた後、地上に引き出したロッドの先端に取り付けていた削孔ビットを取り外し、代わりに土壌採取装置を取り付けます。その後、ロッドを削孔開始地点側に引っ張り、土壌採取装置を図-2(a) 、図-3(a)のように土壌採取不可状態に維持したまま、土壌採取位置まで引き戻します。
 土壌採取位置に到達後(図-4(d))、ロッドを削孔終了地点側に押して、図-2(b)、 図-3(b)に示すように内管と外管の土壌採取孔を連通させて土壌採取可能な状態とし、ロッドを中心軸線を回転中心として一方方向に回転させることで外管に設けたブレードで土壌を内管の土壌採取孔内(収納部)に掻き取るような形で取り込みます。その後、ロッドを削孔開始地点側に引っ張り、土壌採取孔を図-2(a) 、図-3(a)のように土壌採取不可状態に維持しながら削孔開始地点まで戻して地上に出します。土壌採取装置をロッドから取り外し、地上で内管と外管の土壌採取孔を連通させて、内部に収納された土壌を取り出します。
なお、土壌採取装置はロッドを削孔終了地点で掘り上げた後に、複数個ロッドに取り付けることも可能であり、これにより同時に地中の水平方向の地点の土壌を採取することができます。

図-1 土壌採取装置
図-2 土壌採取装置(ガイド孔側)
図-3 土壌採取装置(土壌採取孔側)
図-4 土壌採取手順
土壌採取装置組立前
土壌採取装置全景
土壌取込不可状態
土壌取込可能状態
土壌採取後
採取土壌取り出し状況

3.今後の展開

 わが国における汚染土壌処理方法は、現状では掘削+土壌置換が主体ですが、改正土壌汚染対策法の施行により、今後ますます汚染敷地内における原位置浄化工法が要求される場面が多くなると思われます。土壌浄化ビジネスの先進国である米国においても原位置浄化工法は年々採用割合が増えており、今後わが国でも原位置浄化工法が増加すると思われます。
 当然、原位置浄化では掘削による土壌の汚染把握ができないため、地盤内での浄化確認が非常に重要なポイントとなります。従来の地上からのボーリングでは、制限されたなかでの土壌サンプリングしかできなかったため、今回の水平ボーリングを利用した新たな土壌サンプリング法「ジオカテーテル工法」は、原位置浄化工法との組み合わせのみならず、サンプリング方法単独としても適用が期待できる手法です。土壌調査手法としても、他社にない差別化技術となると考えています。
 また、本システムは汚染調査のみならず、セメント等の改良材で地盤改良された場所に、所定量の改良材が入っているかどうかの確認調査や土壌中の調査したい物質の量を測定するための土壌採取にも利用できます。
 今後、土壌採取装置の外販も視野に入れ、また土壌汚染調査方法としての活用、原位置汚染浄化工法との組み合わせによる活用等、幅広く利用されることを期待します。

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 株式会社熊谷組 広報室
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 株式会社 熊谷組  技術研究所
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