
長スパンフルプレキャスト床工法の開発
平成20年3月17日
長スパンフルプレキャスト床工法の開発
株式会社熊谷組(取締役社長 大田 弘、本社 東京都新宿区津久戸町)、株式会社ファテック(取締役社長 青野孝行、本社 東京都新宿区)、フジモリ産業株式会社(代表取締役社長 藤森行彦、本社 東京都品川区)は、超高層鉄筋コンクリート構造建物における主要構造部材の一つである床スラブをフルプレキャスト化した床工法を開発しましたのでお知らせします。
本開発の結果、これまでプレキャスト化されていた柱と梁に加えて、床スラブもフルプレキャスト化したことにより、現場打ちコンクリート量を大幅に減らせるので建物を高品質化することができます。さらに事業工期を1層当たり3~4日で施工することが可能となります。なお、フルプレキャスト板にはプレストレスを入れているので特に長スパン床に適しております。

写真1 フルプレキャストスラブ全景
1.背景
最近、集合住宅の超高層化が進む中で、耐久性・経済性・耐風揺れ性能などにおいて優位な鉄筋コンクリート構造が増加しております。超高層住宅では高品質はさることながら、事業工期の短縮が要求されるため柱、梁などの部材を工場で製作したプレキャストコンクリート工法が盛んに取り入れられております。
一方、住宅平面プランにおいては、間取りの自由度の要求やスケルトンインフィルを導入した、柱梁型がない大空間が求められており、スラブが長スパン化しております。
このように事業主から求められる工期短縮、エンドユーザーから求められる大空間の確保の両方を満足させるため、更なるプレキャスト化を推進し床スラブをフルプレキャスト化しました。
2.従来技術
従来、プレキャスト化技術は建築生産における品質向上、工期短縮、安全性向上、環境保護や、建設技能工の老齢化への対応のために技術開発が行われ、実施工の場で使われてきました。さらに、住環境に求められる機能の多様化、高度化や高品質、高強度材料への対応などのプレキャスト本来の特徴を生かした構工法の開発が展開されるようになりました。
床スラブをプレキャスト化する場合は、床の底面を部分的にプレキャスト化するハーフプレキャストを採用するのが一般的でした。また床が長スパンとなる場合は、たわみを抑えるためにハーフプレキャスト板にプレテンション形式によりプレストレスを導入したり、床内にボイドを配置して重量の増大を抑制してきました。しかしながら、このハーフプレキャスト板床工法では下記に記すような問題がありました。
①ハーフプレキャストを使った場合、スラブ上端配筋をした後に梁との一体化を図るためにトップコンクリートをスラブ全面に打設する必要がありました。
②バリアフリー対応のため床の仕上げ面を平らにするため、設備配管の通る水廻りの床面を下げて床本体に段差を設ける構造が採用されますが、この場合床スラブ底面にも段差が出来てしまい、ハーフプレキャスト板を2つに分ける必要がありました。また、段差部の補強も必要となり現場作業量が増えてしまいます。(図1参照)
③プレテンション形式ではPC鋼線を直線的にしか配線することが出来ず、効率的にプレストレスを利用することが出来ませんでした。

図1 従来の段差付きスラブ(スラブ底面も段差となる)
3.本工法の概要と設計方針
上記の問題点を踏まえて、スラブの底面から上面まで全てをプレキャスト化する工法の開発に着手しました。その概要は以下の通りです。
①現場でのスラブ全面コンクリート打ちを無くすために、床スラブの底面から上面までをプレキャスト化しました。
②床スラブ底面に段差があると前述したようにプレキャスト板が2つに分かれてしまうので、底面は平らまま上面において水廻り部分だけを窪ませる断面形状としました。
③プレストレスはその効果を有効に発揮させるため、曲線配線が可能なアンボンド形式による導入としました。
床をフルプレキャスト化することにより、構造躯体における工場製品が占める割合、プレキャスト化率(コンクリート体積換算)を試算した結果、ハーフプレキャスト板を用いた場合で65%程度であったものが約15%上昇し80%程度になります。
上記①から③のコンセプトを基に、スパン10.5mモデルプランを想定してフルプレキャストスラブの試設計を行いました。設計方針としては下記の3点に重点をおきました。
・プレストレスは1方向として設計する
・プレストレスにより長期荷重の50%程度をキャンセルする
・ひび割れの許容幅を0.3mm以下とする
そして、この設計方針の妥当性を確認するためフルプレキャスト床スラブ試験体を製作して載荷実験を行いました。

図2 フルプレキャスト試験体形状
フルプレキャスト試験体の諸元

4.実験概要
・試験体
試験体を設計するに当たりモデルスパンとして10.5mを設定しました。そして前記設計方針に基づき試験体を設計しました。試験体のスケールは実大とし、重量、荷役、ボイドの配置などを考慮して、スラブ幅1200mmとしました。図2に試験体図を示します。床厚さは一般部310mm、水廻り部200mmとしました。スパン方向に対して両端に一般部を、中央部に水廻り部を設けました。それぞれの長さは一般部:水廻り部:一般部=1.5m:4.5m:4.5mとしました。一般部には全幅800mmのボイドを入れて軽量化を図りました。
表1に試験体の諸元をまとめたものを、また写真1にフルプレキャストスラブの全景を示します。中空率は0.122、平均床重量(自重)は約5400N/m2です。長期荷重のキャンセルとたわみ抑制のためにアンボンドPC鋼材(SWPR19-19.3mm×2本)を懸垂状に配置し、その有効プレストレス力を514kNとしました。
載荷実験時にスラブ端部の固定度が確保されるように梁型を設けるように計画しました。スラブと梁型の接合部は上端筋をスラブから突き出して梁型に定着させ、下端筋は梁主筋との納まりを考慮してインサートとしました。
・自重によるたわみ観測
梁型のコンクリート打設後2週目に支保工を外し、支保工を外した直後のたわみ(弾性たわみ)を計測するため、スパン方向に変位計をセットしました。そして支保工撤去後、4週間スラブ自重のみによるたわみの進行を計測しました。なお、支保工はスパンL=10.5mに対して2ヶ所(3.5m間隔)設置しました。
図3に支保工撤去直前から4週間のスパン中央でのたわみの推移を示します。支保工撤去直後のいわゆる弾性たわみはδe=3.59mm(スパン全長に対してδe/L=1/2900)程度でした。たわみの進行は最初の5日間で約1.5mm進み、その後は緩やかとなり4週目には5.50mm(スパン全長に対してδe/L=1/1900)でした。
・載荷実験
自重によるたわみ観測の計測後、スラブ上に2点集中載荷による加力を行いました。図4に荷重-たわみ(スパン中央位置)関係を示します。図中の赤破線がスラブに作用する設計荷重(長期荷重)の位置です。図から分かるように設計荷重ではほぼ弾性挙動をしており、設計手法の妥当性を確認することができました。
図4 載荷実験時の荷重‐変形関係

写真2 実験時の状況
5.コスト
当然ではありますがハーフプレキャスト板に比べて製品コストは上がります。しかしながら、施工システム全体で考えた場合、サイクル工程が6日/層が4日/層になれば躯体工期は2/3になりますので人件費、労務費などを削減できます。従って、概算でハーフプレキャスト床工法+現場コンクリート打ちとほぼ同等以下のコストになるものと考えております。なお、現在詳細な施工システムとして試算を行っている最中です。
プレキャスト化率が高いので森林資源である型枠使用量が少なくなり、また現場でのコンクリート打設量も少なくなりますので地球環境に寄与する工法と言えます。
6.今後の予定
床板同士の接合部の性能確認実験、床スラブにおいて最重要な問題である長期たわみ性状について確認していく予定です。また、本長スパンフルプレキャスト床工法を武器に短工期施工で同業他社との差別化・競争力を強化して所存です。
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