プレスリリース

汚染土壌の生物処理評価に遺伝子解析技術を適用

平成14年2月26日

汚染土壌の生物処理評価に遺伝子解析技術を適用
-筑波大学の指導により微生物群集の動態解析手法を技術修得-

株式会社熊谷組(取締役社長 鳥飼一俊)は、汚染土壌の生物処理を行う際の評価手法として、筑波大学中原忠篤教授および野村暢彦講師の指導により遺伝子解析技術を利用した微生物群集の動態解析手法の導入に取り組んでいます。本手法により、生物処理時のリアルタイムのモニタリングや活性度の評価を行うことができ、生物処理の確実な実施のためのキーテクノロジーとして極めて有効な活用が期待されます。

1.背景

土壌や地下水汚染の処理技術として、微生物を利用した分解処理が注目されています。欧米での実績は多く本技術への期待は大きいものの、その一方、生物を利用するため環境条件や汚染物質の種類が複雑で、条件設定が処理効率に大きく影響を与えます。従って、より確実な処理を行うためには、処理サイトにおいて微生物がどのように働いているかを把握することが非常に重要です。

これまで、土壌中の細菌を計測する手法としては培養法が一般的に用いられてきました。しかし、この方法では培養期間に一ヶ月以上を要することもあり、測定結果をリアルタイムに反映することが困難でした。また、環境中に存在する微生物の9割以上が培養困難とされているため、培養法で把握できる微生物種はごく一部にすぎないという欠点もあります。そこで、近年培養によらない群集解析の手法として注目を集めている分子生物学的手法の導入に取り組みました。

本手法は、遺伝子解析技術を利用した微生物動態解析手法であり、培養を経ずに直接核酸を抽出して解析するため、培養困難な菌にも有効とされています。本法を用いることにより、生物処理を開始する前に、対象土壌・地下水中に目的とする汚染物質を分解する菌が存在するかどうかを、迅速に把握することができます。また生物処理の期間中、汚染物質分解菌の動態をリアルタイムでモニタリングすることも可能です。さらに生物処理終了後、そのサイトの菌相が汚染物質の影響のない状態にまで回復したかどうかを確認することにも適用できます。

なお、技術の習得は、筑波大学応用生物化学系中原忠篤教授および野村暢彦講師のご指導の元、当社から研究員を派遣して大学にて研究を進めています。

2.概要

(1) PCR-DGGE法の概要

今回、微生物群集の解析のための分子生物学的手法として、廃水処理や有機物の分解時の評価として近年注目を集め、たいへん多くの研究がなされているPCR-DGGE法の適用を試みました。手法の概要は、以下の通りです。

まず、土壌や地下水などのサンプルから、直接微生物のDNAを抽出し、これをPCR反応により増幅します。PCRとは、微量なDNAを短時間で大量に増やすための技術です。得られたPCR産物の中には様々な細菌のDNAが混在していますが、これを濃度勾配をつけたゲル上で電気泳動する(DGGE:変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)ことにより、細菌の種または属毎にDNAを分離することができます。電気泳動の結果はバンドパターンとして可視化されているため、サンプル中にどれだけの種類の菌が存在するかを、容易に判断することができます。また、このバンドを切り出してDNAを抽出し、ベクターに組み込んで大腸菌に形質転換します。そしてこの大腸菌を培養して大量に得られたDNA断片の塩基配列をシークエンサーで解析することにより、属~種レベルでの同定も可能となります。(下図参照)  

さらに、ある汚染物質に対する分解菌といった特定の菌群の存在を確認したいときは、汚染物質の分解に働く遺伝子に対する特異的なプライマーを用いてPCRを行うことにより、分解菌のDNAのみを増幅させることができます。これをDGGEに供することにより、それらの菌群を選択的に解析することもできます。

PCR-DGGE法は、一連の分析を数日という極短期間で行えるため、従来の培養法では困難であったリアルタイムのモニタリングにも十分適用可能です。

PCR-DGGE法

 

2) 実施例

解析結果

1.C重油実汚染土壌(処理前)

2.    〃   (処理後)

3.A重油模擬汚染土壌(処理前)

4.    〃    (処理後)

5.C重油模擬汚染土壌(処理前)

6.    〃    (処理後)

PCR-DGGE法を用いた汚染土壌の生物処理の評価事例として、油による実汚染土壌や模擬汚染土壌を用いた生物処理の解析事例を示します。

図は、油汚染土壌の生物処理前後における菌相変化をDGGE法により解析した結果です。

実汚染土壌の処理前(レーン1)、処理後(レーン2)については、右向き矢印部分など両者に共通して見られるバンドが存在する一方、処理後のレーン2においてバンドの数が減少しています。これは処理期間中、油分解に働く微生物が優占化したため、菌の多様性が減少したためと考えられます。また模擬汚染土壌についても、A重油(レーン3,4)については左向き矢印上、C重油(レーン5,6)については左向き矢印下のバンドなどがそれぞれ優占となっていることがわかります。また、特にA重油処理後にはバンドの数が著しく減少しており、A重油分解菌の優占化がスムーズに行われたことが推察されます。さらにA重油とC重油で比較してみると、もとは同じ土壌を用いたにも係わらず、汚染油種の違いによりバンドパターンも大きく異なることがわかります。

以上の結果から、汚染物質や汚染土壌の違いにより、そこで優占的に働く菌相にも大きな違いが現れることがわかりました。従って汚染土壌を生物処理するにあたっては、汚染物質の分析と共に微生物相の解析を行うことにより、そのサイトにおける有用な分解菌が十分に活性化されているかをモニタリングする事が重要であると考えられます。

 

3.今後の展開について

本手法の目的は、汚染土壌の生物処理を確実に実施するための活性度評価への適用です。つまり、対象土壌中の分解菌の有無の把握を始め、生物処理に関与する微生物群のリアルタイムのモニタリングにより、微生物活性を維持・向上させるための条件設定(栄養塩の種類・投入量、酸素の供給、水分保持等)に活用ができます。最終的には、本手法の適用データの集積により、効率的な生物処理の計画・実施中および終了後の効果の確認にフル活用したいと考えています。なお、本法を用いた解析に当たっては、従来の培養法による菌数測定も含め、一面的な評価に偏らないよう総合的に検討を行うことが重要と考えています。

将来的には、石油汚染を始め揮発性有機化合物や重金属汚染に対する有用な分解菌の探索を目指したいと考えています。重金属については、生物分解が可能な物質が少ないものの、水銀の還元除去やシアンの分解処理等の研究が開始されています。

また、米国では5~6年前から、旧来の工学的手法を活用したバイオレメディエーションに代わり、汚染サイトが保有する「自然現象」によって地下水中の汚染物質の濃度が自然に減少することを利用する浄化手法「MNA(科学的自然減衰)」が主流になりつつあります。MNAは、浄化がいつまでも完了せず浄化費用が増大することへの対応として、浄化完了代替案と位置づけられており、本手法はMNAの評価を行う際にも極めて有効な手段と期待しています。

[お問い合わせ先]
株式会社 熊谷組
[リリースに関するお問い合わせ先]
経営企画本部広報部
部長 藤島 幸雄
担当 柴山・石賀(電話03-3235-8155)
[技術に関するお問い合わせ先]
技術研究所 環境修復研究グループ
部長 門倉 伸行
担当 竹田(電話0298-47-7505)
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